スマートウォッチが(正確性はともあれ)心房細動(AF)を検出できるようになり、患者自らがAFの存在に気づくようになった。AFを見つけた患者は当然、不安に感じ医師に相談するだろう。では、そのような自由行動下で検出されたAFに対し、抗凝固療法を開始すれば、脳卒中リスクは下がるのだろうか。残念ながら、昨年の欧州心臓病学会(ESC)で報告されたランダム化比較試験(RCT)"LOOP"では、ループ式心電計植え込みによる「積極的AF検出・抗凝固療法開始」は、通常観察に比べ「脳卒中・全身性塞栓症」を減少させなかった[Svendsen JH, et al. 2021.](学会での議論については[医事新報. 2021;5089:64.]参照)。
しかし上記試験で比較された評価項目は「脳卒中・全身性塞栓症」であり、AFに起因する「心原性脳塞栓症」への作用は不明だ。
そこで今年のESCでは、「心原性脳塞栓症」が別名「ノックアウト型」と呼ばれる点に注目し、「重症脳卒中」のみなら「ループ式心電計植え込み」によりリスクが低減しているという仮説のもと、さらなる解析が実施された。
29日のLucas Yixi Xing氏による報告から紹介したい。
LOOP試験の対象は、AF診断歴なく、かつ高血圧、糖尿病、心不全、脳卒中既往の少なくとも1つを認めた、70歳以上の6004例である(結果としてCHA2DS2-VAScスコア≧2)。その結果、91%に高血圧、29%に糖尿病、18%に脳卒中既往を認め、心不全例は4%弱のみだった。
これら6004例は上述の通り、ループ式心電計を植え込む「常時観察」群と「通常観察」群にランダム化され、「常時観察」群では、6分間以上持続するAFが検出されると、抗凝固薬開始が検討されることになっていた。観察期間中央値は64.5カ月である。
しかし今回の追加解析でも、「重症脳卒中」(mRS≧3)の発生リスクは、「常時観察」群で相対的に31%の減少傾向にとどまり、有意差には至らなかった(ハザード比[HR]:0.69、95%信頼区間[CI]:0.44-1.09。1.5 vs. 2.2%)。
さらに「心原性塞栓症・潜因性脳梗塞」を比較しても、同様だった(HR:0.78、95%CI:0.50-1.22)。なおXing氏は、「重症脳卒中」の差が有意とならなかったのは、「検出力不足」(脳卒中発症数が想定よりも少ない)が理由だった可能性を指摘していた。
このように、今回も仮説の確認には至らなかったが、「脳卒中既往」の有無が「ループ式心電計植え込み」の有用性に影響を与える可能性は示唆された。すなわち探索的解析の結果、試験前「既往なし」の4948例では「常時観察」群における「重症脳卒中」のHRが、0.54(95%CI:0.30-0.97)の有意低値となっていたのに対し、「既往あり」(1056例)では、「常時観察」群と「通常観察」群間に「重症脳卒中」リスクに差はない(ただし、脳卒中既往の有無による交互作用P値は0.12)。
また全体で脳梗塞類型(TOAST分類)別の発生率を比べると、最も多かったのはラクナ梗塞(40%)、ついで「他原因・原因不明」(25%)だった(「アテローム血栓性」と「心原性」はいずれも15%前後のみ)。Xing氏はこのラクナ梗塞多発を「興味深い」と評価した。ラクナ梗塞例におけるAF検出率は未解析だという(質疑応答)。
本試験は研究者主導で実施され、Innovation Fund DenmarkやThe Research Foundation for the Capital Region of Denmark、Medtronicなどから資金提供を受けた。また報告と同時に、JAMA Neurol 誌ウェブサイトで公開された[Diederichsen SZ, et al. 2022.]。