多発性骨髄腫は,高齢者に多い形質細胞性の腫瘍性増殖を伴う血液疾患で,経過中に25~50%の患者が何らかの腎障害を呈する。形質細胞由来の単一免疫グロブリンをM蛋白と呼ぶが,このM蛋白の増加に起因して円柱(cast)を形成し腎尿細管閉塞をきたすことが,骨髄腫腎の病態とされている。
最近,形質細胞の腫瘍性増殖を伴わないがM蛋白血症が存在し腎障害を呈する「monoclonal gammopathies of renal significance:MGRS」という概念が提唱されている。免疫複合体や補体沈着を伴う糸球体腎炎を呈する症例,M蛋白由来の沈着症(軽鎖沈着症,重軽鎖沈着症,重鎖沈着症),アミロイドーシス(ALアミロイドーシス)など多彩な病変がこのMGRSに含まれる。
多発性骨髄腫は検診異常(腎障害,貧血,総蛋白高値,尿蛋白)を契機に診断に至る場合も多い。蛋白電気泳動ではMピークを認めることが多く,免疫電気泳動または免疫固定法によりM蛋白を同定するとともに,尿中のBence Jones蛋白を測定する。ネフローゼレベル(尿蛋白3.5g/日以上)の尿蛋白を認める高齢者では,ALアミロイドーシスに伴うネフローゼ症候群の可能性を考慮し,一度は免疫電気泳動検査を施行することが勧められる。
骨髄腫腎,M蛋白血症に伴う腎障害ともに,腎障害の軽減のための全身化学療法が考慮される。多発性骨髄腫に関しては,まず骨髄腫細胞を減らし,臓器障害を緩和するため全身化学療法を行う。この場合,血液内科専門医と連携した集学的な治療が必要となる。ALアミロイドーシスでは,形質細胞性の腫瘍性増殖を伴っていない場合でも,全身化学療法の適応となる。その他のMGRSに関しては,多発性骨髄腫の治療に準じた全身化学療法が考慮されるが,保険適用外である。
多発性骨髄腫に伴う急性腎障害(AKI)の場合,一般的なAKIと同様,特異的な治療はなく,支持療法が中心となる。ALアミロイドーシスやM蛋白を伴う腎障害では,ネフローゼレベルの尿蛋白を呈し,全身浮腫をきたすことがある。ループ利尿薬は,体液過剰を補正する目的での使用を除き,AKIの予防,治療を目的とした投与は行わない。
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