尿失禁は,切迫性尿失禁(尿意切迫感とともに不随意に尿が漏れる),腹圧性尿失禁(咳やくしゃみ,労作時など腹圧が上昇した際に不随意に尿が漏れる),混合性尿失禁(切迫性尿失禁と腹圧性尿失禁の合併),機能障害性尿失禁(身体的あるいは精神的障害により,通常の時間内にトイレに到達することができないために生じる尿失禁),溢流性尿失禁(尿閉など過剰な膀胱充満による尿失禁),神経因性膀胱に伴う尿失禁,その他の尿失禁〔尿道外尿失禁や哄笑性尿失禁(giggle incontinence)*など〕,に大別される。尿失禁の種類に応じた治療が必要である。
*:哄笑性尿失禁は小児期〜思春期の特に女性が罹患する尿失禁で,笑い転げるうちに尿失禁が生じる。
尿失禁の種類を診断するためには,丁寧な問診が不可欠である。尿失禁がどのような状況で出現するのかを問診で明らかにする。尿失禁に加えて,尿意切迫感や頻尿・夜間頻尿がある場合は過活動膀胱が示唆され,その診断のためには過活動膀胱症状質問票(OABSS)の利用が有用である。
50歳以降の男性の切迫性尿失禁では,前立腺肥大症などの膀胱出口部閉塞が原因となることが少なくないため,超音波検査にて前立腺の腫大の有無を評価する必要がある。神経因性膀胱症例では,尿流動態検査(ウロダイナミクス)を行い,膀胱と尿道の蓄尿機能に関する評価が不可欠である。尿道外尿失禁には女性における先天性の尿管異所開口,骨盤内手術や放射線治療後に発生する尿管腟瘻,膀胱腟瘻,膀胱直腸瘻が含まれるので,適切な画像検査や膀胱鏡検査が必要である。
過活動膀胱治療薬であるβ3受容体作動薬あるいは抗コリン薬を試みる。
まずはα1遮断薬などの前立腺肥大症に対する薬物治療を先行させる。前立腺肥大症に対する薬物治療を8~12週行っても切迫性尿失禁が改善しない場合は,β3受容体作動薬あるいは抗コリン薬の併用を行う。
β3受容体作動薬と抗コリン薬の併用を考慮する。これらの薬物に抵抗性の難治性過活動膀胱で,患者がさらなる治療を希望する場合は,ボトックスⓇ(A型ボツリヌス毒素)治療(膀胱鏡下にボトックスⓇを膀胱壁内に注射する治療法)を考慮する。
まずは骨盤底筋訓練を指導し,十分な効果が認められない場合はβ2受容体作動薬であるスピロペントⓇ(クレンブテロール塩酸塩)を試みる。これらの保存的治療でも十分な改善がなく,患者がさらなる治療を希望する場合はTOT手術やTVT手術などの中部尿道スリング手術を考慮する。
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