COVID-19感染後の心血管系(CV)イベントリスク増加は、すでに複数報告されている。ただしそれらにはレトロスペクティブ研究、あるいは詳細なCVイベント内訳が不明という限界があった。そしてこれらの点を克服するプロスペクティブ研究が、10月24日、BMJが発行するHeart誌に掲載された[Raisi-Estabragh Z, et al. 2022]。外来加療のみで済んだCOVID-19であれば、深部静脈血栓症(VTE)以外のCVリスク上昇は認めなかったものの、VTEリスクは感染後の相当長期にわたり遷延する可能性が示された。概略を紹介したい。
解析対象となったのは、英国の40~69歳住民が任意登録したプロスペクティブ・コホートである「UKバイオバンク」内の、COVID-19陽性と診断された1万7871例と、傾向スコアでマッチした陰性3万5742例である。
内訳は男性が47%、年齢中央値は65歳、BMI中央値はおよそ27.5kg/m2だった。
またCOVID-19陽性例中、1万4304例は外来加療のみ、2701例は「COVID-19」による入院、残りの866例は「その他疾患」による入院を要した。
その結果、平均141日の観察期間中、「入院」例のCV転帰は(原因が「COVID-19」、「その他疾患」であるかを問わず)、心筋梗塞と脳卒中、心不全、心房細動、VTE、心外膜炎、いずれの発生リスクも、陰性例に比べ有意に上昇していた。リスク上昇幅が最も大きかったのは「VTE」である。
「VTE」はさらに「入院を要しなかった」COVID-19陽性例でも、陰性例に比べ有意なリスク上昇を認めた(発生率:0.39 vs. 0.14%、ハザード比[HR]:2.74、95%信頼区間[CI]:1.38-5.45)。「VTE」は、非入院陽性例で有意なリスク増加を認めた唯一のCVイベントであった。
そしてこの「VTE」発生リスクを、「入院」「非入院」例併合(陽性例全体)で解析したところ、COVID-19感染から30日経過以降でも、HRは3.97の有意高値が維持されていた(95%CI:2.10-7.53)。
同様に陽性例全体で解析すると、感染30日経過以降も有意なリスク上昇を認めたCVイベントとしては、「VTE」以外に「心不全」(HR:2.78、95%CI:1.71-4.51)と「心房細動」(同1.72、1.11-2.67)、「心外膜炎」(同4.64、1.63-13.2)が明らかになった。
原著者らは、COVID-19感染例におけるCVイベントリスク上昇は「入院」例にほぼ限られるとしながらも、感染後「非入院」例におけるリスク上昇についても、さらなる検討が必要だとしている。
なお、日本静脈学会などによる最新の「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)における血栓症予防および抗凝固療法の診療指針」[2022年6月13日版(Version 4.0)]では、軽症COVID-19に対し「抗凝固療法は不要とし、脱水の予防、理学療法(離床、下肢運動、弾性ストッキング)を中心とする治療を推奨」している[日本静脈学会]。