「上室」とは,ヒス束とそれよりも近位部の心筋組織の総称であり,「上室性頻拍」という疾患を広義にとらえると,肺静脈から生じる心房細動~ヒス束から生じる頻拍までが含まれる,ということになる。しかし,一般的には狭義に解釈されており,心電図上,narrow QRSが規則正しく並ぶ頻拍で,明らかな細動波や粗動波を認めないものを指し,その多くが房室結節回帰性頻拍(AVNRT),房室回帰性頻拍(AVRT)である。
診断は心電図記録によりなされる。正常(あるいは洞調律中と同様の)QRS波形を呈する頻拍で,RR間隔が「整」なものを指す。頻拍中に変行伝導が生じた場合,副伝導路を順行性に伝導する上室性頻拍の場合はwide QRSを呈し,心室頻拍との鑑別が重要になる。
突然に始まり突然に停止する規則正しい動悸が典型的である。息止めなどの迷走神経緊張を誘導する方法で停止する所見は,AVNRTやAVRTを強く示唆する。
可能な限り,発作時の心電図(できれば12誘導心電図)を記録するよう努める。最近では1週間程度の長時間心電図記録ができる機器も広く使用されている。また,Apple watchⓇなど,患者が自費で自己心電計を購入し,発作時に心電図を記録する方法も拡大してきた。発作が持続する場合は,医療機関で12誘導心電図を記録してもらうよう指導する。
AVNRTは房室結節を中心として興奮が回旋しており,通常型の場合,P波とQRS波が同時に興奮するため,P波はほとんど見えない。ただし,V1誘導でP波の終末成分がQRS波後半に重なる小さなノッチを認識できると診断確率が上昇する。
AVRTでは房室間を興奮が大きく回旋しており,興奮波は心室興奮が終わってから心房に侵入してくるため,QRS波の後ろに明確なP波が確認される。ただし,両者における緊急外来での対応はほぼ同様であるため(後述),これらの鑑別ができなくても大きな問題はない。
心房頻拍(AT)や房室接合部頻拍(JT)が持続している場合,これらの診断やAVNRTやAVRTとの鑑別を行うことは容易ではないが,臨床的な頻度は低い。電気生理学的検査により診断されることが多い。房室結節を抑制する薬剤で停止せず,P波とQRS波の数的関係が変動することで診断できる場合もある。
房室解離(心房レートよりも心室レートのほうが速い現象)が確認されれば,心室頻拍と診断する。P波を正しく認識するためには,P波が最も大きく記録されるV1に注目するとよい。房室解離が明確でない場合は,QRS波形から鑑別する方法がある。V1からV6に至るまですべてのQRS波形が上向きまたは下向きの場合,aVrのQRSが陽性の場合などは,心室頻拍が疑われる。また,アデノシン三リン酸(ATP)など,房室結節を抑制する薬剤に対する反応も鑑別の一助となる。
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