左室駆出率(EF)「40%未満」心不全に対する薬剤治療とは対照的に、EF「40%以上」心不全(HFmr/pEF)に対する薬剤治療は定まっていない。わが国のガイドライン(2021年JCS/JHFSガイドライン フォーカスアップデート版 急性・慢性心不全診療)においても、HFmrEFに対しては「個々の病態に応じて判断」、HFpEFに対しても「うっ血に対し利尿薬/併存症に対する治療」と記されているのみだが、これはもっぱら推奨のもととなるエビデンスが存在しなかったことに起因する。
しかしその後、HFmr/pEFに対するSGLT2阻害薬の有用性が、2つのランダム化比較試験(RCT)で示された(EMPEROR-Preserved、DELIVER)。そのような成績を受けYaowang Lin氏(深圳市人民医院、中国)らは、SGLT2阻害薬以外も含めた薬剤の有効性を検討するメタ解析を実施した。Cardiovasc Diabetol誌論文から紹介したい。現時点では「心不全入院」を減少させる薬剤はあるものの、「総死亡」や「心臓死」はまだ、抑制できないようだ。
同氏らが解析対象としたのは、「EF≧40%」心不全を対象として経口薬を比較したRCT 15報(3万1608例)である。評価項目に「総死亡」、「心臓死」、「心不全入院」、「心不全増悪」が含まれていない試験は除外されている。
その結果、「総死亡」リスクをプラセボに比べ有意に減少させた薬剤は、存在しなかった(SGLT2阻害薬、β遮断薬、ACE阻害薬、ARB、ミネラルコルチコチイド受容体[MR]拮抗薬)。ただしβ遮断薬群の対プラセボ群「総死亡」オッズ比(OR)は0.60(95%信頼区間[CI]:0.36-1.01)で、有意差はないものの他剤に比べ低値だった(次いでSGLT2阻害薬[OR:0.94、95%CI:0.85-1.03])。
「心臓死」も同様で、SGLT2阻害薬、β遮断薬、ACE阻害薬、ARB、MR拮抗薬のいずれも、プラセボに比べ有意なリスク低下は認められなかった。しかしACE阻害薬はORが0.59(95%CI:0.28-1.25)と、他剤に比べ有意ではないものの低値となっていた。
「心不全入院」はプラセボに比べ、ACE阻害薬(0.64、0.43-0.96)とSGLT2阻害薬(0.74、0.66-0.83)で有意なリスク低下を認めた(カッコ内はORと95%CI)。一方、ARBではプラセボに比べ「心不全入院」の有意な抑制を認めなかった。そのARBに比べアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNi)は、「心不全入院」ORが0.80(95%CI:0.71-0.91)の有意低値となっていた。
原著者らはこの結果から、HFmr/pEF例がACE阻害薬を忍容できない場合、切り替えるならばARBではなくARNiにすべきだと主張している。