左室収縮能の維持された心不全(HFpEF)への治療は近年、SGLT2阻害薬による「左室駆出率≧40%」心不全の転帰改善を報告するランダム化比較試験が報告され、期待が集まっている。しかし同薬により抑制されるのは「心不全入院」、あるいは「心不全による入院・緊急外来受診」であり「心血管系(CV)死亡」や「総死亡」は減少しない。
ではHFpEF例はどのような原因で死亡しているのか―。その点を詳細に検討したデータがわが国のレジストリ研究である“WET-HF”から11月27日、ESC Heart Fail誌に報告された[Nakamaru R, et al]。HFpEFの半数以上は、CV疾患以外が原因で死亡しているようだ。
解析対象となったのは、関東6施設に急性心不全で入院後、生存退院した連続登録3558例。うち42.3%がHFpEF[EF≧50%]だった。
HFpEF例に対する心不全治療薬使用頻度は、β遮断薬が6割強、レニン・アンジオテンシン系阻害薬が6割弱、アルドステロン拮抗薬が3割弱である。
まずHFpEF例と非HFpEF(HFr/mrEF、[EF<50%])例間で転帰を比較すると、観察期間(中央値:2.0年)中の「死亡率」は、HFpEF例:22.1%、非HFpEF例:23.6%で有意差はなかった(P=0.60)。
ただし年齢を分けて比較すると、「若年」(65歳未満)ではHFpEF例と非HFpEF例間に有意差を認めないものの、「高齢」(65-84歳)と「超高齢」(85歳以上)ではHFpEF例の死亡率が有意に高かった(順に26.6 vs. 20.9%、P=0.002/36.7 vs. 31.7%、P=0.043)。
次に「死亡」に占める「非CV死亡の割合」を見ると、非HFpEF例では「若年」(35.0%)、「高齢」(35.7%)、「超高齢」(41.4%)を問わずほぼ一貫していたのに対し、「HFpEF」例では加齢に伴う増加傾向が見られた(若年:50.0%、高齢:58.8%、超高齢:61.8%)。
そこで「HFpEF」例における「非CV死亡の内訳」を「65歳以上」で見たところ、最多死因は「感染症」(23.7%)、次いで「悪性腫瘍」(20.6%)だった。
なおHFpEFにおける「若年」例の割合は12.1%のみ。「高齢」は59.4%、「超高齢」が28.5%である。
目を転じて「CV死亡」、こちらの内訳を「HFpEF」例で探ると、「心不全死亡」が占める割合は「若年」50%、「高齢」41.1%、「超高齢」38.2%、となっていた。なお「心臓突然死」は順に、20.0%、21.4%、21.3%である。
また「心不全入院」に伴う「HFpEF」例の「CV死亡」ハザード比(HR)は、諸因子補正後も1.86(95%信頼区間[CI]:1.30-2.65)の有意高値だったが、「死亡」のHRは1.12(95%CI:0.90-1.65)と上昇傾向にとどまった。
原著者は、「HFpEF」転帰改善の代替評価項目として「心不全入院」を用いる妥当性に、若干の疑問を投げかけている。
本研究は、科研費と日本学術振興会、厚労省、榊原記念財団、日本医療研究開発機構から資金提供を受けた。