眼窩内組織に占拠性病変を形成する眼窩腫瘍は,他の多くの眼疾患と異なり,病変を直接観察することができないという特徴と診断上のジレンマがある。眼窩腫瘍のおよそ3割は悪性腫瘍であり,時には診断の遅れが治療開始の遅れにつながり,予後に悪影響を及ぼすこともある。
眼球突出や眼位の異常が契機となって診断に至ることが多い。腫瘍が皮下に触知される場合の診断は比較的容易であるが,多くはCTやMRIなどの画像診断検査を行うことによって眼窩内の腫瘍が明らかとなり,診断に至る。脳ドック等の検診や,頭痛や頭部外傷等に対する画像診断検査の過程で偶然,眼窩腫瘍が発見されることもある。もっとも,画像検査所見がきわめて特徴的な海綿状静脈奇形(海綿状血管腫)やリンパ管奇形(リンパ管腫)などの一部の腫瘍を除けば,確定診断は摘出後の病理組織検査にゆだねられる。
診断に際しては,疫学的な情報を把握しておくことが重要である。真の腫瘍性病変ではないが,特発性眼窩炎症は眼窩の腫瘤性病変の中で最多を占める。その他,代表的な良性腫瘍として海綿状静脈奇形,多形腺腫(涙腺),リンパ管奇形,IgG4関連眼疾患などが,悪性腫瘍にはリンパ腫や腺様囊胞癌(涙腺)のほか,悪性腫瘍の眼窩転移などがある。リンパ腫の中では低悪性度の粘膜関連リンパ組織(MALT)リンパ腫が多くを占める。
画像検査所見や臨床経過から眼窩腫瘍と診断され,複視などの視機能障害や整容面に影響を及ぼしている場合は摘出術を計画する。腫瘍の局在やサイズに応じて局所麻酔か全身麻酔を選択する。換言すれば,視機能や整容面に影響を及ぼしていない良性腫瘍については経過観察のみで問題ないことが多い。一方,画像検査所見に加え,臨床所見や経過から悪性腫瘍の可能性が高いと判断された場合は,生検による診断確定後,治療方針を決定するか,一期的に全摘出による根治治療をめざす。
臨床的に特発性眼窩炎症,IgG4関連眼疾患,リンパ腫などのリンパ増殖性疾患が疑われる場合は,血液検査とともに生検を行い,それぞれの診断に応じた治療を行う。
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