心房細動に伴う血栓塞栓症を予防する方法のひとつとして,経カテーテル的左心耳閉鎖術が近年大変注目されている。
左心耳閉鎖後には大部分の症例で抗凝固薬が中止可能となる。その結果として,出血性脳卒中・心血管死亡・全死亡・慢性期大出血が,抗凝固薬を継続する場合よりも減少することが報告されている。
デバイスの進歩に伴い,安全性と有効性はますます改善しているが,デバイス血栓(device-related thrombosis:DRT)や術後の適切な抗血栓療法,適応患者選択などに関して,さらなるエビデンス蓄積が必要である。
心房細動は一般診療で最も遭遇する機会が多い不整脈のひとつである。超高齢社会のわが国では,高齢者ほど有病率が高い心房細動に対する対応が,現在,非常に大きな問題となっている。そして心房細動は,脳卒中や心筋梗塞,心不全,および死亡などの心血管有害事象の発生とも密接に関連していることが知られている。
本稿では新しい脳卒中予防法として近年大変注目され,わが国でも急速に臨床使用が増えている経カテーテル的左心耳閉鎖術について概説する。
心房細動では,心房の電気的および構造的リモデリングに伴う心房の収縮能低下と心房拡大が,心房内での血液うっ滞を引き起こし,易血栓形成の状態となる。これによって全身の血栓塞栓症,特に心原性脳卒中の発症リスクが上昇する。
一般に,心房細動における心原性脳卒中,全身性塞栓症予防の第一選択は経口抗凝固薬であり,これまで無作為化研究を含め数多くの大規模臨床試験が行われ,その安全性と有効性が報告されている。以前は経口抗凝固薬として,ワルファリンのみ使用可能であったが,近年では直接作用型経口抗凝固薬(direct oral anticoagulant:DOAC)の有効性と安全性が数多くの大規模臨床試験で報告され,現在の非弁膜症性心房細動(non-valvular atrial fibrillation:NVAF)における抗凝固療法の主流となっている。
NVAF患者に抗凝固療法を開始する場合,血栓塞栓症リスクは一般にCHADS2スコアもしくはCHA2DS2-VAScスコアで評価する。一方,抗凝固療法中の出血リスクについてはHAS-BLEDスコアで評価する。
これらのスコアを参考に抗凝固療法の適否を検討するが,血栓塞栓症リスクのCHADS2スコア・CHA2DS2-VAScスコア,そして出血リスクのHAS-BLEDスコアは多くの因子が重複しているため,血栓塞栓症リスクが高い患者は出血リスクも高く,抗凝固療法のジレンマとなる。
DOACはワルファリンに比べて一般に大出血,特に頭蓋内出血が少ないとされるが,それでも大出血の年間発生頻度は主要な大規模臨床試験でも1~4%とされ,決して少ない頻度とは言えない。
一般に心房細動に伴う血栓塞栓症では,90%以上の症例で左心耳内に血栓を認めると報告されている。このため血栓塞栓症予防として,左心耳の切除や閉鎖術が近年大変注目され,特にカテーテルによる左心耳閉鎖術が広く欧米で臨床使用されるようになった。そして2020年9月には,わが国においても経カテーテル的左心耳閉鎖デバイスであるWATCHMANTM(Boston Scientific社製)の臨床使用が認可され(図1),現在はその次世代モデルとなるWATCHMAN FLXTMが使用可能となっている。