前立腺肥大症の治療は薬物治療と外科治療に大別される。
外科治療の低侵襲化が追及されてきた。新規低侵襲治療として,経尿道的前立腺吊り上げ術と経尿道的水蒸気治療がわが国において保険適用となった。
両者とも,不良な全身状態や併存疾患などにより,従来の外科治療の適応が困難な症例が対象となる。
尿道の近傍に存在する移行領域から発生する腺腫(前立腺肥大症)により,種々の程度の膀胱出口部閉塞が生じ,それが原因で尿勢低下や尿線途絶などの排尿症状が出現する1)。前立腺肥大症に起因する膀胱出口部閉塞の機序として,腺腫の増大による前立腺部尿道の機械的閉塞と,平滑細胞上に存在する交感神経α1受容体の刺激による平滑筋収縮および一酸化窒素減少による平滑筋弛緩不全による機能的閉塞,の2つが挙げられる。
さらには,膀胱出口部閉塞に続発する膀胱過伸展・高圧・虚血により排尿筋過活動が生じ,頻尿や尿意切迫などの蓄尿症状の原因となる。
膀胱出口部閉塞による排尿筋の虚血や酸化ストレスが長期間継続すると,排尿筋過活動は排尿筋低活動に移行し,尿勢のさらなる低下や残尿量の増加などの排尿症状の増悪に繋がることが動物実験で示されている2)。
治療が必要な前立腺肥大症とは,一般的には前立腺肥大症により引き起こされた下部尿路症状(排尿症状,蓄尿症状,排尿後症状)が生活の質(QOL)を障害しており,患者が治療を希望する場合である。
治療法は薬物治療と外科治療に大別される(図1)。外科治療は薬物治療より圧倒的に有効であり,逆に薬物治療は外科治療より圧倒的に非侵襲的である。治療法の選択は,それぞれの治療法の得失のバランスを鑑みてインフォームドコンセントの上で決定することになる。これまでは,薬物による治療効果が不十分であるが,不良な全身状態や併存疾患により従来の侵襲的な外科治療(手術治療)の適応が困難な患者の対処に苦慮することも多かった。このような中で,侵襲性を低く抑えながらもある程度の有効性を担保する低侵襲治療が登場した。
本稿では,2022年にわが国で保険適用となり,既に臨床的な使用が進んでいる2つの低侵襲治療,すなわち経尿道的前立腺吊り上げ術(PUL)と経尿道的水蒸気治療(WAVE)について,それらのコンセプト,手技,臨床成績および適正使用ガイドについて概説する。