食事による脳卒中1次予防の有用性は、DASH食や地中海式食などで報告されている。一方、2次予防についての大規模検討はない。2次予防例では後遺症や発症が家計に及ぼす影響など、通常と異なる食事への影響も考慮する必要もあるだろう。
このような問題意識から、脳卒中既往例を対象とした初の大規模食事実態調査が、2月8日から米国ダラスで開催された国際脳卒中学会で報告された。脳卒中後にもかかわらず食事の質は決して高くなく、そして脳卒中後遺症がその一因となっている可能性も示唆された。
定量化に欠け、決してconclusiveではないものの、脳卒中後の食事に関する問題点に光を当てた貴重な研究である。報告者はErika Zoellner氏(テキサス・ウーマンズ大学、米国)。栄養・食品科学の博士課程に在籍しつつ、臨床現場にも立つ栄養士である。
同氏らが解析対象としたのは、脳卒中既往を有する1626例と、年齢・性別をマッチさせた脳卒中既往のない1621名。いずれも米国全国無作為調査であるNHANES(全国健康・栄養調査)1999~2018年データから抽出した。既往例と非既往例ではNHANESに記録された時期もマッチしている。
そしてこの2群間で食事を比較した。比較にあたって評価されたのは、マクロ栄養素とミクロ栄養素の摂取量、そして健康食指数(HEI)スコアである。HEIは米国政府が推奨する「米国人向け食事ガイドライン」(DGAs)へのアドヒアランスを評価する指標である(「50以下」ならば「要改善」、実臨床における改善目標値は「80-90」)。また食事の質を規定している因子も探索した。
その結果まず、脳卒中既往例では対照群に比べ、総エネルギー摂取量が相対的に24%の有意低値となっていた。これは減量を目指した結果とも考えられるが、脳卒中既往例では摂取エネルギーに占める脂質の割合が高く(50.9 vs. 40.4%)、ミクロ栄養素摂取状況もおおむね対照群よりも悪かった。例を挙げると95.3%でナトリウム過剰摂取、99.2%でカリウム摂取不足、93.2%で繊維質摂取が不足していた。食事の「質」は低かったと考えられる。
また脳卒中既往群のHEIスコアは「要改善」とされる「50未満」(49.8)であり、対照群の「51.9」に比べ小差だが有意に低かった。
次に食事を規定しているであろう背景因子を整理した。すると脳卒中既往群では、適切な食品安定入手不可(Food Insecurity)を訴える例が対照群の2倍以上に上った。Zoellner氏は脳卒中による就業不能や高額医療費が一因となっている可能性を考えている(ただし脳卒中発症前からの変化を検討したデータはない)。
また既往例では「記憶混濁」や「身体活動の制限」、「摂食困難」、「食事準備の困難さ」、「一人では食事を思い出せない」―なども(食事に関する制限とする)回答として多く挙がっていた。
先述した通り、脳卒中既往例の食事は決して健康的ではないが、これら要因が一因となっている可能性をZoellner氏は指摘した。そして脳卒中既往例に食事介入する際には食事の質だけでなくこれらの要因も考慮する必要があると結論している。
本研究には報告すべき利益相反はないとのことである。