慢性血栓塞栓性肺高血圧症(chronic thromboembolic pulmonary hypertension:CTEPH)は,器質化血栓により肺動脈が閉塞,狭窄を生じた結果,肺血管床の減少から肺血管抵抗が上昇し,肺高血圧をきたす疾患である。無治療では肺高血圧症による右心不全を生じ,予後不良となる。CTEPH患者の多くで静脈血栓症が先行するが,静脈血栓症の一般的なリスクファクターを認めない症例も多い。
息切れの鑑別診断であり,心電図では右心負荷所見,胸部X線写真では肺高血圧症に伴う肺動脈の拡張,左第2弓の突出などを認める。心臓超音波検査で肺高血圧症の所見が得られれば,右心カテーテル検査で確定診断を行う。また,肺換気血流シンチグラフィーでの換気血流ミスマッチ,肺動脈造影または造影CT検査における肺動脈内の慢性血栓像の所見は,肺動脈性肺高血圧症との鑑別に有用である。血栓性素因や抗リン脂質抗体症候群など,背景疾患の鑑別も必要である。
CTEPHでは,肺動脈血栓内膜摘除術(PEA),バルーン肺動脈形成術(BPA),内科的治療(血管拡張療法)が選択可能である。
PEAは,体外循環および超低体温循環停止(DHCA)を用いて,両側肺動脈内血栓・肥厚内膜を同時に摘除する外科的治療法である。肺動脈本幹から肺葉・区域動脈の中枢側に病変があり(中枢型),WHO機能分類Ⅲ度以上の症状を有し,重篤な併存症がない症例ではPEAの適応となる。
BPAは,バルーンを用いて肺動脈の狭窄や閉塞を物理的に解除するカテーテル治療である。BPAの対象となるのは,PEAの施行が困難な症例,すなわち主要な病変が外科的に到達困難な末梢側に存在するか,高齢や合併症のためにPEAの適応がないと判断された症例,またはPEA術後の遺残肺高血圧症例である。
血管拡張療法(肺血管拡張薬)では,可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬〔アデムパスⓇ(リオシグアト)〕と選択的プロスタサイクリン受容体(IP受容体)作動薬〔ウプトラビⓇ(セレキシパグ)〕が保険適用を認められており,外科的治療の非適応例,術後の遺残肺高血圧症の第一選択となる。
現時点で根治性が証明されている治療はPEAのみであるため,CTEPHと診断されたすべての症例で,PEAの適応の有無を判断する。PEAの適応がないと判断された場合は,BPAと薬物療法を検討する。
抗凝固療法は終生にわたって必須であり,ワルファリンカリウムの使用が推奨されている。直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)の有効性や安全性を示すエビデンスは現時点では存在しないが,臨床の現場では多く使用されている。
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