男性不妊症とは,男性側の要因により,何らかの介入を行わない限りパートナー女性の自然妊娠が困難となる疾患群である。その病態は多岐にわたるが,①精子形成障害に伴う精子濃度や運動率の異常,②精路通過障害に伴う閉塞性無精子症,③勃起や射精に困難をきたす性機能障害,の3種類に大別される。1年以上の不妊期間をもって不妊症のカップルと診断されることが多いが,女性の妊娠可能性は,加齢により経時的に低下するため,より早期に原因検索と介入を開始すべきという考えが一般化しつつある。
精液の顕微鏡検査によって測定される精子濃度や運動率は,自然妊娠するまでの期間や不妊治療の成功率と相関するが,これらの結果は性興奮の様態や体調による変動が大きいため,2回以上検査して評価することが望ましい。精液検査の結果の解釈には「WHO laboratory manual」を参照するとよい。精巣の大きさや精索静脈瘤の有無については,理学所見や超音波検査で評価する。採血では,黄体化ホルモン(LH),卵胞刺激ホルモン(FSH),亜鉛濃度を測定する。また,最近では妊娠可能性に悪影響を及ぼす因子として,精子のDNA断片化率や精液の酸化ストレスの評価が行われることもある。
精子形成は,下垂体前葉から分泌されるLHとFSHにより促進される。このため,下垂体前葉機能低下が原因の精子形成障害の場合,内分泌療法が奏効する。ただし,積極的に適応となる症例はごく限られる。
精子形成に悪影響を及ぼす精索静脈瘤は,成人男性の約10%にみられる所見である(「精索静脈瘤」の稿を参照)。触知可能な精索静脈瘤を有する症例は,外科的治療により精子形成の改善が見込める。
臨床的に有意な精索静脈瘤がない精子形成障害の場合,エビデンスのある治療法は確立されていない。ただし,軽度~中等度の精子濃度や運動率の異常の場合,生活指導(禁煙,精巣の温度上昇の予防,前立腺炎の予防),栄養補助食品の摂取,漢方薬(補中益気湯など)の投与が経験的に実施される。特に,精子形成障害の背景に潜在的亜鉛欠乏や酸化ストレスが示唆される症例の場合,亜鉛製剤や抗酸化物質(コエンザイムQ10,ビタミンC,ビタミンE,アスタキサンチン)のサプリメントを試みてもよい。その際は,精子形成の周期が約74日であることを考慮して,3カ月間は介入を継続する必要がある。ただし,効果がみられない場合は,時機を逸することなく,顕微授精をはじめとした生殖補助医療を導入する。
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