大阪大学大学院感染制御学教授の忽那賢志氏は4月14日、東京国際フォーラムで開かれた日本内科学会総会のシンポジウムで講演し、COVID-19パンデミック下の臨床研究の取り組みを振り返るとともに、次のパンデミックに備えた研究体制・政策の早期準備の重要性を強調した。
「COVID-19が与えたインパクト」と題したシンポジウムでは、忽那氏をはじめとするCOVID-19研究の第一人者らが臨床研究、倫理的課題など様々な視点から講演を行った。
忽那氏は、日本で生じた臨床研究上の問題の一例として、武漢チャーター便の対応にあたった国立国際医療研究センターや都立病院の医師らと協働して論文を書いた際の倫理審査の遅れを指摘。「本当であれば一括審査をしているので、(国立国際医療研究センター倫理委員会の承認が下りた後は)各病院の病院長の承認だけでよかったはずが、病院によっては倫理審査が必要なところもあった」と述べた。
パンデミック下の倫理審査は、どの病院も経験したことがないため、緊急対応をとることができず、日本の論文発表はドイツ・シンガポールの論文発表に大きく後れを取ることになったという。
研究体制の課題としては、医師が臨床業務と並行して他院、研究センターとの調整や論文の執筆にあたることの負担を挙げ、「大きい病院であれば、臨床研究センターがサポートしてくれることもあるが、人手不足が大きな課題」と述べた。
次のパンデミックに備えて、倫理審査のフレキシブルな対応と国内ネットワークの整備が必要と強調した。
日本の感染症研究の大きな反省点としては、治療薬の臨床研究の遅れを指摘。迅速な取り組みの事例として、米国で世界初の新型コロナ治療薬として承認されたレムデシビルの臨床研究、英国でのデキサメタゾンの有効性を早期に示した検証試験やAIを活用したトシリズマブの研究を紹介した。
米国ではパンデミックが起こった場合のランダム化比較試験(RCT)の実施方法を周到に準備しており、倫理上の問題が発生しないよう、すべての患者に有効性が示された薬剤を投与する研究手法を採用できたという。欧州やアジア各国に豊富なスタッフを派遣したことも迅速な審査の承認と論文化を後押しした。
忽那氏は「パンデミック下の臨床研究は変異株が登場したり、治療薬が登場したりとなかなか当初の計画通りにはいかないことが多かった。後遺症の研究などまだ解決されていない問題も多くあるので、日本からもエビデンスをしっかり出せるよう、研究のできる感染症専門医を育てるだけでなく、行政とも協力して臨床研究が行える体制を構築・維持していくことが重要」と訴えた。