SUMMARY
地域共生社会の実現には分野や属性の壁を越えた多職種協働実践(IPW)が必要不可欠であり,学生時代からの継続的な多職種連携教育/学習(IPE/IPL)が重要である。筆者は多様な専門性を持つ学生・実務者・教員等とともに,「サードプレイスIPE」を実践している。
KEYWORD
多職種連携教育/学習(IPE/IPL)
IPEは,IPWに必要な能力の獲得と維持のための教育方法のひとつであり,「複数の領域の専門職者が同じ場所でともに学びお互いからお互いのことを学ぶこと」と定義されている。より能動的な学習をIPLと表現する。
PROFILE
富山県立中央病院看護師→富山県立総合衛生学院専任教員,IPEに出会う→石川県立こころの病院看護師,2018年いしかわ多職種連携教育プロジェクト“あいまいぴー”を結成,20年多職種連携・協働学びあい“まいぷるプロジェクト”を結成→現職。
POLICY・座右の銘
転んでもただは起きない
富山大学富山プライマリ・ケア講座が創設した“とやまいぴー”は,所属や専門分野の異なる人々が集うサードプレイスIPE/IPL(interprofessional education/learning,多職種連携教育/学習)である。2014年の第1回開催当時,看護学校の新任教員だった筆者は「教える」ことに強い恐怖心を持っていた。しかし,学生とともに学びあう過程で,教育とは共育であり,“いち学習者”でよいのだと救われた気持ちになった。
その後筆者は,約30回の学生主体のサードプレイスIPE/IPLイベントと,100回以上の交流会やミーティングの開催に携わってきた。その中で少しずつ見えてきた,学校を越えた学生活動による職種間の越境の可能性と,継続性の課題について考察する。
多職種協働実践(interprofessional work:IPW)のための継続的なIPEの必要性については,造詣の深い先生方の著書や論文にゆだねる1)〜3)。
協働を阻害する一因であるヒエラルキー(権威勾配)は,どのコミュニティにおいても多少なりとも存在する。特に医師や看護師など医療職の多くは,自らの専門領域に特化した思考や行動をとりやすく,時として他者に対して排他的となる(サイロ化)と言われている4)。どれだけ専門性を磨いても,その能力を必要な時と場で発揮できなくては,ただの自己満足となりかねない。
専門職としてのアイデンティティーの獲得は卒前から緩やかに始まり,職場風土において強化される。専門職間の社会化(interprofessional socialization)には,次の3つのステージがあると提唱されている5)。
・ Stage 1:単一職種アイデンティティーの崩壊
・ Stage 2:職種の価値観や役割の学び
・ Stage 3:二重のアイデンティティーの発達─「自職種」と「保健医療福祉専門職のコミュニティ」への所属感
自職種と他職種の理解は,他者との相互作用の中で往還しながら深化する。個人の視野を広げ,協働を俯瞰する二重のアイデンティティーの獲得は職種間の越境の鍵であり,学生時代からの多様な出会いと学びが重要である。