新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染症法上の位置づけが5月8日より季節性インフルエンザなどと同じ「5類感染症」に変更された。これに伴い、これまで認められていた診療報酬上の特例は大幅に見直され、患者も医療費の自己負担が生じることとなった。政府は、急激な負担増が生じないよう、患者への公費支援を一部継続。コロナ後遺症の診療に対しては診療報酬の特例を新たに設け、特定疾患療養管理料(147点)を3カ月に1回算定できるという取り扱いを決めた。5月8日以降の支援措置を整理するとともに、後遺症に対する診療報酬特例について現場の医師の評価を聞いた。
新型コロナ感染症の5類移行に伴い、政府の対策は「法律に基づき行政が様々な要請・関与をしていく仕組み」から「個人の選択を尊重し、国民の自主的な取り組みを基本とする対応」に転換。患者への対応についても、感染症法に基づく入院措置・勧告、外出自粛要請などの私権制限がなくなり、医療費の自己負担(1~3割)が生じることとなった。
一方で、急激な負担増を緩和するため、新型コロナ治療薬の費用に対する公費支援や、新型コロナ治療のための入院医療費の一部に対する公費支援は「期限を区切って」継続することとなった。
外来医療費、入院医療費、検査に関する支援措置を整理したのが表。
治療薬で全額公費支援の対象となるのは、経口薬のラゲブリオ(一般名:モルヌピラビル)、パキロビッド(一般名:ニルマトレルビル/リトナビル)、ゾコーバ(一般名:エンシトレルビル)、点滴薬のベクルリー(一般名:レムデシビル)、中和抗体薬のロナプリーブ(一般名:カシリビマブ/イムデビマブ)、ゼビュディ(一般名:ソトロビマブ)、エバジェルド(一般名:チキサゲビマブ/シルガビマブ)。
入院医療費については、高額療養費の自己負担限度額から2万円を減額する(2万円に満たない場合はその額を減額)。
これらの支援措置について政府は「夏の感染拡大への対応としてまずは9月末までの措置とする」方針。その後の取り扱いについては、薬価の状況や感染状況などを踏まえてあらためて検討するとしている。
5類移行を正式決定した4月27日、厚生労働省は新型コロナ感染症の罹患後症状(いわゆる後遺症)への対応も決め、診療報酬の特例を5月8日から適用するとした事務連絡を全国に送付した。
特例の内容は、「新型コロナ感染症患者と診断された後、3カ月以上経過し、かつ罹患後症状が2カ月以上持続している回復患者」に対し、厚労省が公表している「罹患後症状のマネジメント(第2版)」を参考とした対面診療を行い、必要に応じて精密検査や専門医への紹介を行った場合に、特定疾患療養管理料(147点)を3カ月に1回算定できるというもの。
算定要件として、都道府県が公表している「罹患後症状に悩む方の診療を行っている医療機関」のリストに掲載されている必要があり、特例の期限は2024年3月31日までとしている。
新型コロナ罹患時に患者が検査キットによる検査のみを実施し、医療機関を受診しなかった場合でも、3カ月経過後に罹患後症状が2カ月以上持続している場合は、医師が事後に感染した時期を確認すれば147点を算定できる(診療報酬明細書の摘要欄に感染した時期や確認方法を記載する必要あり)。
厚労省保険局医療課の担当官は「各都道府県で罹患後症状の診療をする医療機関が公表され、罹患後症状マネジメント第2版が発行されているといった背景を踏まえ、診療報酬上の特例措置を講じることにした」と説明している。
後遺症診療が一般の診療所に広がらない原因として診療報酬上の評価の低さを早くから指摘してきた平畑光一医師(ヒラハタクリニック院長)は本誌の取材に対し、診療報酬の特例が認められたことを「非常に大きな一歩」と評価。
その一方で、特例の内容は「実態に沿っているとは考えづらい」とし、「約1割が仕事を失うような重い疾患」を診る行為に対する診療報酬としては不十分と指摘している。
「3カ月に1回」という算定頻度についても見直す必要があるとし、「診察する医療機関を大きく増やすためにも、月に2回の算定を可能とすべき」としている。
診療報酬の特例導入で後遺症診療に参加する医療機関がどれくらい増えるか、今後より実態を反映した診療報酬に見直されていくか、注目したい。
まずは「保険点数がついた」ということを大きく評価したい。「国が報酬面でコロナ後遺症(COVID-19後遺症)を正式に認めた」という事実は、非常に大きな一歩であろうと思う。
ただし、現場の感覚としては、内容が実態に沿っているとは考えづらい。
当院の患者の労働者3307人のうち解雇などで仕事を失った方は320人、休職になった方は1402人であり、非常に強い症状に苦しむ患者が多い。
約1割が仕事を失うような重い疾患を診るのに、現在の診療報酬で十分と考える医療機関は少ないだろう。少なくとも、3カ月に1度の診療で十分というケースは非常に少ない。
感染者の10%以上が後遺症になると多くの論文で指摘されており、わが国では300万人以上の患者が苦しんでいる可能性がある。これは糖尿病の通院患者の数とほぼ同数である。
診察する医療機関を大きく増やすためにも、3カ月に1回ではなく、高血圧並みに月に2回の算定を可能とすべきだ。厚労省の実態調査が終わり次第、診療報酬に反映されることを期待したい。
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