血糖降下薬であるSGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬(GLP-1-RA)はプラセボを上回る腎保護作用が、糖尿病性腎臓病を対象としたランダム化比較試験(RCT)[AWARD-7、DAPA-CKD、CREDENCE]において報告されている。
しかしそこまで腎機能が低下していない2型糖尿病例が対象であれば、GLP-1-RAの腎保護作用はほかの血糖降下薬と差を認めないようだ。米国・マサチューセッツ総合病院のDeborah J. Wexler氏らが、大規模ランダム化比較試験(RCT)”GRADE”の追加解析として5月22日、JAMA Intern Med誌に報告した。
GRADE試験の対象は、メトホルミン服用下でHbA1c「6.8~8.5%」の、診断から10年以内だった2型糖尿病5047例である。ただし血清クレアチニン「男性>1.5mg/dL、女性>1.4mg/dL」(のちに「推算糸球体濾過率[eGFR]<30mL/分/1.73m2」に変更)例は除外されている。同様に直近1年間のCVイベント既往例と症候性心不全例も除外された。
平均年齢は57.2歳、63.6%が男性だった。
eGFR平均は94.9mL/分/1.73m2、「60mL/分/1.73m2未満」例は2.5%のみだった。尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)中央値は6.4mg/gCrである。
また血圧平均値は128.3/77.3mmHg、58.1%がレニン・アンジオテンシン系抑制薬を服用していた。
これらはメトホルミンを継続のままそれぞれ、GLP-1-RAまたはDPP-4阻害薬、SU剤、インスリン追加の4群にランダム化され、平均5.0年間観察された。SGLT2阻害薬は本試験開始時には米国未承認だったため、試験薬に含まれていない。
その結果、観察期間中のeGFR低下率は4群間に有意差を認めなかった。4群の低下曲線はほぼ重なり合ったまま推移した。
UACRの推移も同様で、4群間に有意差はなかった。
eGFRの変化を「60mL/分/1.73m2未満までの低下」や「40%以上の低下」で評価しても同様に、4群間に有意差はなかった。
ただしWexler氏らは5年間という観察期間が、このような心腎低リスク例に対する薬効を評価するには短かった可能性も指摘している。
なお本試験からはすでに、上記4剤間で最小血管症・大血管症発生リスクにも差がないと報告されている[NEJM. 2022]が、本論文著者が記しているように(より発生数の多い)「全CVイベント」で比較すると、GLP-1-RAによる抑制作用は他剤を有意に上回っていた(2012 ADA報告拙稿)。
GRADE試験は米国国立衛生研究所の国立糖尿病・消化器・ 腎疾病研究所(NIDDK)から資金提供を受けて実施された。
追記:腎機能が維持されている2型糖尿病例に対するGLP-1-RAの腎保護作用はインスリンと差を認めない。このような知見は近時、イスラエルからの実臨床データ解析からも報告されている(5月23日、Schechter M, et al. 2023)。