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「天気痛」を教えて下さい[学術論文]

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  • 2. 天気痛発症のメカニズム

    天気の影響で慢性痛が悪化するメカニズムには,まだ明らかでない点が多い。

    気圧の変動が関節を不安定にして,関節症の痛みを悪化させるという説7)がある。また,低気圧で組織や血管が膨張する説や,ヒスタミンが産生されて痛みが発生するという考えもあるが,筆者の知るところ,これらの説に明確なエビデンスは示されていない。

    一方で,筆者のグループは,痛みが気圧や気温の影響で悪化するメカニズムに,交感神経と末梢の温度受容器の変調が関与していることを,動物実験で示してきた8)。また,末梢神経損傷や関節炎があると,末梢と後根神経節において,痛覚線維と交感神経に異常連絡(クロストーク)が発生することも明らかにしている9)10)。よって,低気圧や寒冷,高湿度などの環境刺激で交感神経が興奮することにより,このクロストークを介して痛覚線維が刺激されて痛みが増強するものと考えている11)。さらに筆者らは,前庭感覚の二次ニューロンである前庭神経核細胞が気圧変化で活性化することを明らかにし12),内耳に気圧センサーが存在する可能性を示した。実際,天気痛患者は健常者よりも人工的にめまい感覚を起こしやすいこと1)や,実臨床でも内耳の過敏性を伴う天気痛症例が多いことがわかっている13)。天気痛発症のメカニズムに内耳の過敏性が深く関わっていることは,後述する治療戦略において重要である。

    3. 天気痛の予防と治療

    筆者の専門外来では,上記の研究成果をもとに,薬剤,利水漢方薬,認知行動療法,理学療法を積極的に取り入れて治療を行ってきた。

    「天気の崩れで痛みが悪化する」という訴えに対しての治療の原則は,発症を早めに“予測”して,症状の“予兆”時に対策を始め,痛みの悪化を“予防”する,「3-Y療法」13)である。

    症状が出るタイミングで,疼痛には鎮痛薬,気分障害には抗うつ薬などを適時使用する。また,特に,天気の影響を受ける頭痛はめまい症状も呈する場合が多い13)ことから,めまいやふらつきの症状が天気と連動する患者には“抗めまい薬”を症状の予兆時に早めに服用してもらうことで,痛みの発症と悪化の予防ができる場合が少なくない。筆者の治療プロトコルを表2に示す。

    発症の予測には,患者自身が記録する「痛み日記」や「天気痛レーダーチャート」14)が有用である。特に後者を使って,痛みの変化だけでなく,天気と気象要素(気圧,温度,湿度)の変化や睡眠時間,活動内容についても同時に記録するように指導している。体調や痛みの変化が,天気変化のどのようなタイミングでスタートするのか,あるいはどのような天気で改善するのか,について確認させるようにしている。また,食事,光,臭いなど天気変化以外の発症トリガーの存在も認識させる。患者はこのように詳細に記録していくことで,自分の痛みが悪化するタイミングを知り,それに合わせて早めの対策を行うことで,体調の悪化を予防することが可能になってくる。

    これらの方法を用いて,患者に“痛みを自己コントロールできる”という安心感を与えることで,痛みに対する認知の歪みを正して,治療効果を高めることができる。そして,“効率よく痛みの増強を阻止できた”という経験が,天気に対する敗北感やあきらめ感を減らすことになり,自己効力感を高め,長期的な慢性痛の改善につながっていく。

    天気痛の発症を早めに予測するために,最近では気圧の変化を表示するアプリもいくつか提供されていて,症状の変化とのすりあわせを行いやすくなっている。ただ,これらを利用している患者からの訴えでよく聞くのが,「気圧の大きな変化が現れる2~3日前から体調が変化することが多いので,アプリが示す表示を鵜呑みにすると,対策が手遅れになる」ということであった。

    筆者らはこの問題を解決するには,精度の高い症状悪化予報の構築が必要と考え,ウェザーニューズ社が提供するWEBサイト・ウェザーニュース(WN)の「ソラミッション」(利用者が調査に協力し,様々なテーマについて報告するプラットフォーム)を用いて大規模調査を行い,それをもとに天気痛発症予測モデルを構築した。以下に,「天気痛予報」と名づけた,発症予測情報サービスの概略を説明する15)

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