天気痛発症予測モデルの構築に用いた調査では気圧に注目し,台風や低気圧の接近日をピックアップすることとした。初期の調査期間は2018年9月28日~2019年10月13日,調査回数は計35回であった。調査を繰り返す過程で,ユーザーからの返答の傾向解析を行い,問いかけの文言(2〜4択)や対象時間帯,回答の収集時間を一定化していった。また,天気痛以外の回答が含まれないように,質問の文言を配慮しながら行った。そして,すべての調査で得られたユーザー個々の症状報告と,その報告の発信地に最も近い観測地点の気圧データとの相関性を分析した。のべ15万7698人の回答から,気圧変化パターンと症状の変動について相関解析を行ったところ,以下の3つの気圧変化パターンが症状の悪化と相関性を示すことがわかった。
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低気圧や台風などの現象が通過するときに起こる,天気図にも現れる比較的大きな気圧変化。1日に20hPa以上の気圧変化が現れるときもある。気圧変化の傾きが大きいほど,リスクは高まる。
天気の崩れの前触れとして発生する,天気図には現れない微小(50Pa以下)な気圧変化。低気圧が接近,あるいは台風・熱帯低気圧が発生して接近してくる過程などで,微小な気圧変動の波が前触れとして到達する。継続時間は数分から数十分程度と短いが,発生すると1日に複数回押し寄せるパターンが多い。
主に,大気が昼間に太陽光で温められることや日没後に冷やされることによって,1日2回アップダウンを繰り返す,半日サイクルの気圧変動。通常,気圧は9時頃と21時頃に高く,3時頃と15時頃に低くなり,変動幅は数hPa程度ある。低気圧や台風などの接近時には,大きな気圧変化に先行して,このアップダウンの変動幅が通常よりも大きくなる。
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解析を繰り返したところ,大きな気圧変化よりも,それに先行する“微気圧変動の到達と大気潮汐のずれが大きくなるタイミング”に,痛みの悪化や体調変化を訴える頻度が高く,両者の相関性が高いことがわかった。低気圧や台風が接近する前に症状が悪化するという訴えが多いことを,統計的に証明したと解釈される。
そこで,季節ごとにこれらの要因の寄与度に重みづけを行い,3時間ごとに6日先までの天気痛発症リスクを予報するモデルを構築し,WNアプリ上で運用を開始した(図1)。現在も調査と解析を繰り返しており,リスク予報のバージョンアップを進めている。
本論考では,天気痛の臨床的特徴を示し,メカニズムについて簡単に述べた。また,治療(3-Y療法)を行う上で有益な発症予測モデル(天気痛予報Ⓡ)についても触れた。詳細は,最新の拙著16)を参考にして頂きたい。
【文献】
1)佐藤 純:天気痛〜つらい痛み・不安の原因と治療方法〜. 光文社, 2017.
2)Inoue S, et al:PLoS One. 2015;10(6):e0129262.
3)ウェザーニューズ:天気痛調査2020. 2020.
https://jp.weathernews.com/news/32013/
4) Cioffi I, et al:J Oral Rehabil. 2017;44(5):333-9.
5)佐藤 純, 他:PAIN RES. 2021;36(2):75-80.
6)Vlaeyen JWS, et al:Pain. 2000;85(3):317-32.
7)Wingstrand H, et al:Acta Orthop Scand. 1990;61(3):231-5.
8)Sato J:Int J Biometeorol. 2003;47(2):55–61.
9)Sato J, et al:Science. 1991;251(5001):1608-10.
10)Sato J, et al:Neurosci Lett. 2004;354(1):46-9.
11)Jin Y, et al:Pain. 2008;135(3):221-31.
12)Sato J, et al:PLoS One. 2019;14(1):e0211297.
13)郭 泰植:ペインクリニック. 2020;41(6):719-30.
14)佐藤 純:ビジネスパーソンのための低気圧不調に打ち勝つ12の習慣. ディスカヴァー・トゥエンティワン,2021.
15)ウェザーニューズ:天気痛予報Ⓡ.
https://weathernews.jp/s/pain/
16)佐藤 純:1万人を治療した天気痛ドクターが教える「天気が悪いと調子が悪い」を自分で治す本. アスコム, 2022.