アミロイドーシスとは,様々な前駆蛋白質が重合し,線維様のβシート構造を持つ難溶性沈着物(アミロイド)となり細胞外に沈着する疾患の総称であり,腎にアミロイドが沈着したものをアミロイド腎症と呼ぶ。アミロイド腎症を引き起こす前駆蛋白質には,免疫グロブリン軽鎖(amyloid light chain:AL),血清アミロイドA(amyloid A:AA),異型トランスサイレチン(amyloidogenic transthyretin:ATTR),免疫グロブリン重鎖(amyloid heavy chain:AH)などが挙げられるが,実際にアミロイド腎症の前駆物質となるのは前2者がほとんどである1)。
アミロイド腎症の確定診断は,腎へのアミロイド沈着を病理学的に証明することである2)。コンゴーレッド染色によって濃紅色に染色される無構造の沈着物が,腎糸球体メサンギウム領域や糸球体係蹄壁および動脈壁などに認められる。この染色性はすべてのアミロイドに共通であり,さらに偏光顕微鏡によって緑色偏光を呈することで,非特異的な染色と区別できる。電子顕微鏡では,アミロイドは径7~10nmの細線維構造を呈している。
ALアミロイドーシスとAAアミロイドーシスの鑑別方法として,過マンガン酸処理によってAAアミロイドはコンゴーレッドによる染色性を失い,偏光顕微鏡下での緑色偏光を示さないが,ALアミロイドは染色性が保たれるという性質を利用する。最近では,抗免疫グロブリン軽鎖抗体や抗アミロイドA抗体などの特異抗体を用いた免疫染色によって,より確実な診断が可能となった。腎生検が困難な患者に対しては,胃や直腸の粘膜生検組織に同様の染色を行うことによりアミロイド沈着を証明することも可能である。
腎に沈着したアミロイド蛋白を除去することは非常に困難であり,治療は原因となるアミロイド前駆蛋白の産生を抑えることに主眼が置かれる。
原発性ALアミロイドーシス患者では,腎生検による診断から2年以内に約半数が死亡するとの報告もあり,自然経過に伴い多臓器へのアミロイド沈着を引き起こし,特に心機能障害を生じた場合の予後はきわめて不良である。治療としては,アミロイド前駆蛋白質であるL鎖蛋白を産生する異常形質細胞を除去することを目的とするため,多発性骨髄腫に準じた治療が行われる。このため古くから化学療法として,メルファラン(MEL)とプレドニゾロンの併用(MP療法)が行われてきた〔MELの代替薬としてシクロホスファミド(CYP)を使用する場合もある〕。しかしながら,MP療法の奏効率は20~30%であり,現在はあまり推奨されない。一方,大量デキサメタゾン(DEX)はMP療法より奏効率が高く,血液学的完全奏効(CR)は24%,臨床効果45%,平均生存期間は31カ月であるが,有害事象が多い。この2つの治療法を組み合わせたMELと減量DEXの併用療法(MEL/DEX)は,血液学的効果67%,臨床効果48%で,効果発現も4.5カ月以内と早い。本療法は忍容性が高く,生存期間5.1年,無増悪生存期間は3.8年であった。
欧米・日本を問わず,可能な症例には,MEL投与に自家末梢血幹細胞移植を併用した治療法が,特に欧米では最も標準的な治療法として行われてきた。欧米では,MEL投与前にCYP投与を行うことが多く,わが国ではMEL投与前にVAD(ビンクリスチン,ドキソルビシン,DEX)療法を行うことが多い。しかし,自家移植前の寛解導入療法としてのVAD療法の意義は確立していない1)。近年では,MEL/DEXと自家末梢血幹細胞移植との無作為比較試験でも生存期間は56.9カ月であり,両群間で有意差はない。よって,自家移植の適応がない症例では,MEL/DEXが第一選択として推奨される。VAD療法に関しては,自家移植前の寛解導入療法としての意義は確立していない3)。
最近,多発性骨髄腫の新規治療薬であるサリドマイド,ボルテゾミブ,レナリドミドなどの有用性が,アミロイドーシスに対する治療でも検討されている。サリドマイド・CYP2・DEXの併用や,プロテアソーム阻害薬であるボルテゾミブ・DEX併用療法などの有効性が報告されつつあり4),移植適応のない症例で推奨されている(保険適用外)。
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