妊娠中は胎盤から産生されるインスリン拮抗ホルモンやアディポサイトカインなどの影響によりインスリン抵抗性が増大する。インスリン抵抗性を代償するため,膵β細胞が肥大・過形成し,インスリン分泌促進・高インスリン血症状態となる。また,胎児の成長に伴いブドウ糖消費の増大もみられ,空腹時血糖は低下するが,インスリン抵抗性が勝ると妊娠糖尿病(gestational diabetes mellitus:GDM)発症,糖尿病悪化を引き起こす。
妊娠前~妊娠初期の母体高血糖により,先天異常児の発生頻度は高くなる。また,妊娠中に母体の高血糖が続けば,母体には流早産,妊娠高血圧症候群,糖尿病網膜症・腎症の増悪,ケトアシドーシス,胎児には過剰発育児/巨大児,胎児仮死,新生児には低血糖症,黄疸,呼吸障害など,種々の周産期合併症が生じやすくなる。
妊娠中に初めて発見または発症した,糖尿病に至っていない糖代謝異常を指す。75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)において,①空腹時血糖値(FPG)≧92mg/dL,②1時間値≧180mg/dL,③2時間値≧153mg/dLの基準のうち1点以上を満たした場合をGDMとする。
妊娠中に初めて発見または発症し,①FPG≧126mg/dL,②HbA1c値≧6.5%,いずれかを満たした場合を指す。
①妊娠前に既に診断されている糖尿病,②確実な糖尿病網膜症,いずれかを満たした者が妊娠した場合を指す。
妊娠可能年齢の糖尿病女性には,妊娠前から厳格な血糖管理(目標HbA1c値<6.5%),糖尿病合併症の評価・治療(目標:単純網膜症,腎症2期まで),経口血糖降下薬やGLP-1受容体作動薬のインスリンへの変更,降圧薬の中止・変更,避妊方法の指導などをしておく。
血糖モニタリング:妊娠中は空腹時血糖値<95mg/dL,食後1時間値<140mg/dLまたは食後2時間値<120mg/dL,HbA1c値<6.0~6.5%を目標にする1)2)。良好な血糖を維持するために,血糖自己測定(SMBG)や持続グルコースモニタリング(CGM)を活用する。
食事療法:総摂取エネルギーは,目標体重〔[身長(m)]2×22〕×30kcalを基本とし,肥満例(非妊時BMI≧25)は妊娠中の付加なし,非肥満例では妊娠時期によって付加量を変更する(初期+50kcal,中期+250kcal,後期+450kcal,授乳期+350kcal)2)3)。栄養素配分は糖質50~60%,蛋白質20%,脂質20~30%とし,極端な糖質制限は勧めない。1日3回食で食後血糖が高い場合は分割食を試みる。食品交換表とカーボカウント法を併せた指導が推奨される。
運動療法:運動可能かメディカルチェックを行った上で,中等度の全身運動/有酸素運動を行う(食前・食後30分以内は禁止)。
薬物療法:ペン型注射器による頻回インスリン注射あるいはインスリンポンプを選択する。投与量は,妊娠初期は妊娠前と同量あるいは減量(−10%程度),中期以降漸増し,分娩前は1.5~2.0倍になることが多い。
なお,妊娠糖尿病では食事療法を基本とし,運動可能例には運動療法も勧める。血糖モニタリングで目標値に達しない場合はインスリン療法を開始する。
インスリン使用者は,投与量を妊娠前に戻すか,分娩直前の1/2とし,SMBGの値をみながら調整する。授乳後は低血糖を起こしやすくなり,卒乳後は血糖が上昇しやすく,不安定になりやすい。糖尿病および糖尿病合併症が増悪しないよう,定期的管理を継続する。
妊娠糖尿病では産後に正常化しても,その後糖尿病に進展しやすいので,食事・運動の継続,体重管理,定期的な検査(分娩後4〜12週後にOGTT,その後もHbA1c,FPG,OGTT)などのフォローアップが必要である。
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