【主にRTAの背景疾患がその自然経過と腎予後を左右することから,RTAの原因疾患を推定することが優先される。治療は原因疾患の治療,もしくは慢性腎臓病(CKD)に準じて行う】
RTAの病態である「酸塩基平衡の機能不全」単独では,糸球体濾過量(GFR)は正常または軽度の低下のみと考えられます。
一方,RTAの原因は多岐にわたり,自然経過や腎予後はむしろそれらの原因によって異なります。最小限の治療で通常の生活を送れる患者もいれば,末期腎不全に進行して生存期間が短くなる患者もいます。たとえば,原発性の遠位尿細管性アシドーシスのコホート1)では,小児と成人の両方で慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)stage 2以上の有病率の増加が認められており,その原因は腎結石,嚢胞形成などの腎臓における構造的な異常,繰り返す脱水による急性腎障害等と考えられています。逆に,CKD患者では機能的な腎臓の質量が徐々に減少すること自体で,RTAの発症リスクが高まります。
つまり,CKD初期では代償的なNH4+の産生増加による酸分泌増加がみられますが,腎機能障害の進行に伴い,この代償的増加が内因性酸産生に追いつかなくなり,高クロール性のアニオンギャップ正常のアシドーシスが発生します。さらにCKDが進行すると,リン酸および他の陰イオンの排泄能力が低下し,高アニオンギャップ性代謝性アシドーシス(尿毒症性アシドーシス)を発症すると考えられます2)。
ご質問の内容と似た症例に我々も遭遇しますが,RTAの鑑別3)を行った上で,原因が特定できない場合,このようなCKDに伴うRTAと考え,食事管理や危険因子の管理など,一般的なCKDの治療を行っております。
【文献】
1) Lopez-Garcia SC, et al:Nephrol Dial Transplant. 2019;34(6):981-91.
2) Palmer BF, et al:Adv Ther. 2021;38(2):949-68.
3) Rodríguez Soriano J:J Am Soc Nephrol. 2002;13 (8):2160-70.
【回答者】
堀田晶子 帝京大学医学部医学教育学講座講師
中村元信 東京大学医学部附属病院腎臓・内分泌内科 講師
佐藤信彦 東京大学医学部附属病院感染制御部 特任講師(病院)・副部長/腎臓・内分泌内科