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尿細管性アシドーシス(RTA)の自然経過と腎不全への移行

No.5189 (2023年10月07日発行) P.49

堀田晶子 (帝京大学医学部医学教育学講座講師)

中村元信 (東京大学医学部附属病院腎臓・内分泌内科 講師)

佐藤信彦 (東京大学医学部附属病院感染制御部 特任講師(病院)・副部長/腎臓・内分泌内科)

登録日: 2023-10-05

最終更新日: 2023-10-03

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尿細管性アシドーシス(renal tubular acidosis:RTA)の1型,2型の鑑別がつけがたい,また原因疾患が明らかでない症例で,既に軽度の腎機能障害をきたしている症例に出会うことがあるように思います(アニオンギャップ正常アシドーシス)。RTAの自然経過ならびに腎不全への移行などの報告はあるのでしょうか。帝京大学医学部医学教育学講座・堀田晶子先生に,できれば文献とあわせてご教示願えればと思います。
(大阪府 I)


【回答】

【主にRTAの背景疾患がその自然経過と腎予後を左右することから,RTAの原因疾患を推定することが優先される。治療は原因疾患の治療,もしくは慢性腎臓病(CKD)に準じて行う】

RTAの病態である「酸塩基平衡の機能不全」単独では,糸球体濾過量(GFR)は正常または軽度の低下のみと考えられます。

一方,RTAの原因は多岐にわたり,自然経過や腎予後はむしろそれらの原因によって異なります。最小限の治療で通常の生活を送れる患者もいれば,末期腎不全に進行して生存期間が短くなる患者もいます。たとえば,原発性の遠位尿細管性アシドーシスのコホート1)では,小児と成人の両方で慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)stage 2以上の有病率の増加が認められており,その原因は腎結石,嚢胞形成などの腎臓における構造的な異常,繰り返す脱水による急性腎障害等と考えられています。逆に,CKD患者では機能的な腎臓の質量が徐々に減少すること自体で,RTAの発症リスクが高まります。

つまり,CKD初期では代償的なNH4の産生増加による酸分泌増加がみられますが,腎機能障害の進行に伴い,この代償的増加が内因性酸産生に追いつかなくなり,高クロール性のアニオンギャップ正常のアシドーシスが発生します。さらにCKDが進行すると,リン酸および他の陰イオンの排泄能力が低下し,高アニオンギャップ性代謝性アシドーシス(尿毒症性アシドーシス)を発症すると考えられます2)

ご質問の内容と似た症例に我々も遭遇しますが,RTAの鑑別3)を行った上で,原因が特定できない場合,このようなCKDに伴うRTAと考え,食事管理や危険因子の管理など,一般的なCKDの治療を行っております。

【文献】

1) Lopez-Garcia SC, et al:Nephrol Dial Transplant. 2019;34(6):981-91.

2) Palmer BF, et al:Adv Ther. 2021;38(2):949-68.

3) Rodríguez Soriano J:J Am Soc Nephrol. 2002;13 (8):2160-70.

【回答者】

堀田晶子 帝京大学医学部医学教育学講座講師

中村元信 東京大学医学部附属病院腎臓・内分泌内科 講師 

佐藤信彦 東京大学医学部附属病院感染制御部 特任講師(病院)・副部長/腎臓・内分泌内科

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