すべての中毒患者における最優先事項は,蘇生(resuscitation)である。蘇生においては,気道・呼吸・循環の安定化を優先して行う。蘇生後に,解毒薬や除染が有効な患者を評価・特定する。
薬剤の特定,用量,摂取経路は,リスク評価の上できわめて重要な情報である。
精神疾患,薬剤の影響, 逮捕の懸念,家族や友人への影響などから,本人からの聴取が困難なことが多いため,家族・友人からの聴取,過去の診療録,通院先からの診療情報を取得する。なお,携帯電話やメールから購入履歴などの情報が取得できる場合がある。また,救急隊情報を活用する〔空包や現場環境(臭いや疑わしい物質の存在)〕。
最初にバイタルサインを評価し,異常がみられた場合は,速やかに蘇生を行う。急性薬物中毒は,時間や代謝とともに全身状態が変化するため,何度も繰り返し患者を評価する。
体系的に診察することで,薬剤や重症度の重要な手がかりとなる(表1)。
詳細な病歴が取得できない場合,中毒の特定に,症状や徴候でカテゴライズしたものであり,薬物の推測が可能である場合がある(表2)。
急性薬物中毒の治療の原則は,①蘇生ならびに全身管理,②吸収の阻害(胃洗浄,活性炭投与),③排泄の促進(尿のアルカリ化,血液浄化),④解毒・拮抗薬の投与,である。
循環動態が不安定なときには二次救命処置(ACLS)のガイドラインに準じた対応を行う。全身の管理が必要な合併症として,低血糖,不整脈,痙攣,不穏・興奮などが発生することがあり,気道・呼吸・循環の安定化を優先して行いながら,上述した合併症に対応していく。
胃洗浄が中毒患者の転帰を改善させたとする報告はほとんどない。
毒物の摂取量が致死的で効果的な治療法がない,原因物質の摂取から1時間以内,が適応である。方法を以下に示す。
一手目 :意識レベルの低下があれば気道確保(気管挿管など)
二手目 :〈一手目に追加〉36~40Frの胃管チューブ(小児では22~24Fr)を使用,左側臥位で頭部を20°下げ,微温湯200mLで(分割して)愛護的に洗浄を繰り返す(戻した排液が透明色になるまで続ける)
チューブの抜去前に,活性炭投与を考慮する。なお,腐食性物質・炭化水素の摂取,気道が確保されていない,全身状態が不安定かつ蘇生を要する状態にある(低血圧や痙攣など)場合は禁忌である。また,合併症として,誤嚥性肺炎,低酸素血症,水中毒,低体温,喉頭痙攣,消化管損傷などがある。
単回の活性炭投与:溶液に溶かして,懸濁液として経口投与し,消化管内の毒素を吸着する。活性炭に吸着しやすい中毒物質を1時間以内に摂取した場合に考慮する。なお,金属(鉄,鉛など),リチウム,腐食性毒素,アルコールなどは吸着しにくい。
複数回の活性炭投与:腸肝循環・消化管運動を低下させる物質,消化管内で結石を形成する物質などに有効な可能性がある。便秘,腸閉塞,消化管穿孔には注意する。なお,胃内容物は定期的に吸引し,腸蠕動音が聴取されない場合は投与しない。適応はカルバマゼピン昏睡,フェノバルビタール昏睡,また血液浄化が使用できない場合のテオフィリン薬,コルヒチン,抗コリン薬,バルビツール酸系薬,オピオイド系薬,フェニトイン,Caチャネル阻害薬,サリチル酸系薬,などである。方法を以下に示す。
一手目 :初回投与量〈成人の場合〉1回50g内服,〈小児の場合〉1回1g/kg内服(複数回の投与時:初回投与後,2時間ごとに25g内服)
活性炭に吸着されない物質の摂取や,活性炭の投与なしで回復する場合,気道が確保されていない場合,腐食性物質の摂取,上部消化管穿孔の可能性がある場合は禁忌である。合併症として,嘔吐,活性炭の誤嚥,経口投与された解毒薬の吸収障害などがある。
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