2型糖尿病(DM)例の血圧管理では「収縮期血圧(SBP)の確実な低下」のみならず、「拡張期血圧(DBP)70mmHg未満への過降圧回避」も重要である可能性が示された。シンガポール・Duke-NUS医学校のLoraine Liping Seng氏らが同国大規模2型DMレジストリ8万例超を解析した結果、明らかになった。11月6日、Journal of the American Heart Association誌で報告した。
DM例に対する積極的降圧の有用性は、これを証明する明快なランダム化比較試験(RCT)が存在しないため、各国でガイドライン策定のたびに争点となってきた。
今回解析対象となったのはシンガポール在住で、40歳以上だった2型DM患者8万3721例である。8施設が参加するレジストリから抽出された。
女性が50.6%を占め、78.9%が降圧薬を服用していた。
これら8万3721例を対象に、観察開始時の到達血圧とその後7年間の心血管(CV)イベントリスクの関係を、「CV疾患既往の有無」「65歳の上下」(本稿では割愛)で2分して調べた。
(1)SBP
CV疾患「1次予防」例ではSBPが「<140mmHg」であれば、CV死亡は減少する可能性が示された。すなわち諸因子補正前のCV死亡ハザード比(HR)は、観察開始時SBP「≧140」群に比べ「130-139」「120-129」いずれの群でも、有意に低値となっていた。
一方「2次予防」例ではより厳格な降圧(SBP<130mmHg)の必要性が示唆された。つまり観察開始時SBP「≧140」群よりもCV死亡HRが有意に低かったのは「120-129」群のみであり、「130-139」群では有意差に至らなかった。
またCV疾患「1次予防」例では、SBP「130-139」よりもさらに厳格な降圧の有用性も示唆された。具体的には、観察開始時「130-139」群に比べて「120-129」群では、その後のCV死亡リスクが有意に低かった(相対リスク17%減)。
(2)DBP
一方、観察開始時のDBP別にCV死亡HRを比べると、CV疾患「1次予防」「2次予防」を問わず、「≧90」「80-89」「70-79」群間に有意差はなかった。
ただし、観察開始時DBPが「<70」まで下がっているとCV疾患「1次予防」「2次予防」を問わず、その後のCV死亡HRは「70-79」群に比べ有意に高くなっていた(HRは順に1.35と1.38)。
Seng氏らは、DBP「<70」群におけるCV死亡リスク増加は「因果の逆転」である可能性を指摘している。その上で臨床上はDBP「<70」群に対して、併存症や合併症、血圧の推移、そして併用薬の注意深い評価が必要だと注意を喚起した。
なお、2型DMに対する積極降圧が通常降圧に比べ「CV死亡・心筋梗塞・脳卒中」を抑制し得なかった大規模RCT“ACCORD"では、積極降圧群の到達DBP平均値が「64.4」まで低下していた(通常降圧群は70.5)。
本研究はシンガポール科学技術研究庁から資金提供を受けた。