前立腺腫瘍のほとんどが前立腺腺管から発生した腺癌である。
わが国における前立腺癌の罹患数は男性がんの中で第1位(9万4748人:2019年),死亡数は第6位(1万2759人:2020年)となっている(国立がん研究センターがん統計)。やや古いデータではあるが,初診時に転移を認める割合は約13%でその5年相対生存率は65.6%と報告されており,転移がんの予後は必ずしも芳しくない(全がん協生存率:2011~2013年症例)。
50歳を血清前立腺特異抗原(PSA)検査の開始年齢として,その基礎値をもとに以降の検査間隔を定め,PSA検査を行うことが転移がんによる死亡率低下に重要である。
初診時から遠隔転移のある未治療の前立腺癌(転移性去勢感受性前立腺癌:mCSPC)の標準的な初期治療は,長らく黄体化ホルモン放出ホルモン(LHRH)製剤による内科的な去勢療法ないし外科的な去勢療法であった。わが国ではこれに加え,非ステロイド性抗アンドロゲン薬を併用する複合アンドロゲン遮断(CAB)療法を選択する泌尿器科医が多かった。
しかし近年,上記ホルモン治療で再燃した去勢抵抗性前立腺癌に対して効果が証明されている新規アンドロゲン受容体シグナル阻害薬(ARSI)を,mCSPCの初期治療として去勢療法に加えて併用することで,全生存期間が有意に延長することが報告された。2017年には,高リスク因子を持つmCSPCに対して,テストステロン合成経路の酵素CYP17A1の阻害薬アビラテロンを去勢療法に併用することの有効性が示された。また2019年には,すべてのリスクのmCSPCに対して,去勢療法に加えアパルタミドまたはエンザルタミドの併用の有効性が示された。さらに2022年には,去勢療法に加えアビラテロンとドセタキセル,またはダロルタミドとドセタキセルを併用することが,去勢療法+ドセタキセル+プラセボの併用より有意に全生存期間の延長が報告されており,ここ数年でmCSPCに対する標準的な治療は大きく様変わりしている。
以上の背景から,mCSPCの初期治療の原則は,LHRH製剤による内科的な去勢療法ないし外科的な去勢療法に加え,ARSIを投与することである。また,症例によってはこれにドセタキセルを併用することも必要になってくる。ただしARSIには有害事象もあることから,高齢者や糖尿病などの基礎疾患を有する患者には,よく相談の上,治療薬を選択することが肝要である。
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