心不全(HF)例における「サルコペニア」と「死亡」リスクの相関はすでに、わが国からも報告されている[Konishi M, et al. 2021]。しかしサルコペニア相当と判断する筋肉量評価に日常臨床で汎用できる指標のいずれを用いるべきか、この点は必ずしも明らかでない。この点に関し北里大学の佐藤 薫氏らはHF 500例超の解析から、「上腕周囲長」と「上腕筋囲長」で評価した筋肉量が心血管系(CV)転帰と相関する一方、「下腿周囲長」や生体電気インピーダンス(BIA)法評価筋肉量は相関しないことを見出し、1月9日、Journal of Cardiology誌で報告した。
解析対象となったのは北里大学病院心臓血管センターに入院した65歳以上のHF例中、退院時にサルコペニア評価が実施された546例である。退院後評価が不可能だった35例は除外されている。年齢中央値は77歳、女性が56.6%を占めた。
これら546例を対象に、退院時の筋肉量指標と「死亡・HF再入院」(1次評価項目)、「CV死亡/入院」の関係を調べた。
検討した筋肉量指標は「上腕周囲長」と「上腕筋囲長」、「下腿周囲長」、ならびにBIA法評価による「骨格筋量指数」の計4種類である。「下腿周囲長」と「骨格筋量指数」のサルコペニア基準値はAsian Working Group for Sarcopenia(AWGS)2019年版に従い、それ以外は「日本人の新身体計測基準値(JARD 2001)」の25パーセンタイル値未満を「サルコペニア相当」とした。
その結果、退院後0.9年間(中央値)で29.9%に「死亡・HF再入院」を認めた。
次に「死亡・HF再入院」リスクと相関した筋肉量指標だが、有意相関を認めたのは「上腕周囲長」と「上腕筋囲長」のみだった。すなわち「上腕周囲長」が「サルコペニア相当」と判定例の「死亡・HF再入院」ハザード比(HR)は、「非サルコペニア相当」例に比べ2.50(95%信頼区間[CI]:1.64-3.81)の有意高値だった。これは「上腕筋囲長」判定「サルコペニア相当」でも同様だった(HR:1.98、95%CI:1.35-2.92)。
一方、「下腿周囲長」とBIA「骨格筋量指数」判定筋肉量による「サルコペニア相当」例では、「非サルコペニア」に比べ「死亡・HF再入院」の有意なリスク上昇は認められなかった(HRは順に1.18と0.82)。
これらの結果は「CV死亡/入院」で検討しても同様だった。
なぜ「下腿周囲長」とBIA「骨格筋量指数」判定によるサルコペニア相当筋肉量は「上腕周囲長」や「上腕筋囲長」と異なり、「死亡・HF再入院」と「CV死亡/入院」の予知因子とならなかったのか。この点について佐藤氏らは、高齢者やHF例では体液貯留や下肢浮腫を来しやすい点を挙げ、それらにより「下腿周囲長」やBIA法[Ceniccola GD, et al. 2019]による筋肉量評価が不正確になった可能性を指摘している。
本研究は科研費から資金補助を受けた。