・前立腺や膀胱機能障害の疾患診断を優先しがちであるが,プライマリ・ケアで頻尿に対応する場合,長期にわたり関わることが多いので,生活環境や習慣などの様々な要因が頻尿の原因として患者に影響していることをイメージする。
・診断の基本は問診である。加えて,尿沈渣検査と腹部超音波検査を行えばほとんどの疾患の鑑別は可能であると考えている。
・もし心配であれば,悪性腫瘍の除外として,必要に応じて血尿患者の尿細胞診と,男性頻尿患者に対する血清PSA値測定を行っておくことは推奨される。
・頻尿の治療では100点満点をめざさない。それぞれの原因の関わり合いの度合いに注意しながら,まずは60点をめざすような気持ちで治療を開始する。患者の満足度が十分でない場合で,患者の求めに応じて治療薬を変更したり,複数の内服薬を併用したりしても,患者が期待するほどは症状を緩和できない場合がほとんどである。
・まずは,頻尿の原因となっている基本的な疾患を特定しつつ,原因別に対応する。それぞれの疾患に対する様々な治療薬に関しては極端に危険なものはないので,基本的な薬を投与する。
・男性頻尿にはα遮断薬,女性の場合には抗コリン薬やβ刺激薬が治療の中心となる。一方で,原因となる疾患が複数併存している例も多いので,それぞれの疾患への対応を要する場合もある。
・複数の疾患が影響し合って症状が複雑化している場合,環境の変化や心因性などの理由を探って治療計画に組み込むことが重要である。
・患者の生活環境などをしっかりと聴取することが肝要である。
・薬が症状の軽快に望ましい種類のものであったとしても,すぐに症状は軽快しないことが多いので,必ず治療開始前にそれを伝える。
・治療により安定経過中の患者の症状が不安定になった場合にも,安易に投薬内容の変更を考慮しない。
・まずは環境を含めた悪化原因を考察してじっくりと対応する。
本稿では,頻尿の原因などを実践的に紹介し,ガイドラインを踏襲しつつも,筆者が日常的に行っている頻尿診療について,ナラティブな視点を中心に執筆する。
いわゆる前立腺肥大症や過活動膀胱など,頻尿を呈する疾患に対する診断や投薬などの診療作法が重要であることに異論はないが,それだけでは解決しない場合が大変多い。そのため,内服薬による加療だけに頼ってしまうと,頻尿治療は非常にバランスの悪いものになることを実践的に紹介したい。後半では,症例を提示しながらポイントについても解説しているので,参考にして頂ければ幸いである。
なお本稿では,主に,頻尿に対する考え方や俯瞰的なアプローチに関して紹介したい。慢性前立腺炎や間質性膀胱炎など,各疾患の治療に関してはかなり奥が深い部分があるので,「Dr. 松木の内科で診る 泌尿器科疾患」シリーズの【前立腺肥大症】【膀胱炎】などもご一読頂きたい。最後に,参考にするガイドラインを紹介する。