2月7日から米国フェニックスで開催された国際脳卒中学会(ISC)では、昨年の欧州脳卒中学会で報告され、ISC初日に論文が公開されたARCADIA試験[Kamel H, et al. 2024]から2つの追加解析が報告された。同試験では心房細動(AF)非合併「心房器質異常」(atrial cardiopathy:abnormal atrial tissue substrate)[Kamel H, et al. 2016]に対して、抗凝固療法の有用性は抗血小板薬を上回らなかったが、今回の追加解析では対象として「心房器質異常」例が適切に選択されていたか否かが問われた。
まずARCADIA試験の概略だが、証明を試みた仮説は、AFは認めないものの「心房に器質的異常がある」と考えられた潜因性脳梗塞既往例では、抗凝固療法の有用性は抗血小板薬を上回るというものである。背景に存在する考えは「AFそのものだけが脳梗塞リスクを高めているのではなく、AF発症の基礎にある(はずの)心房器質異常が脳塞栓症リスクの大元だ」とするモデルである[前出、Kamel H, et al. 2016]。
そこで北米で登録された1015例を直接経口抗凝固薬(DOAC)群とアスピリン群にランダム化し、脳梗塞再発リスクが比較された。しかしDOAC群における脳梗塞再発ハザード比(HR)は1.00(95%信頼区間[CI]:0.64-1.55)で抗血小板薬と差はなかった(なおDOACに安全性をめぐる懸念はなし)。
参考までに今回のISCでは、同試験のon-treatment解析も示されている。不忍容による服用中止に加え、アスピリン群ではAF検出後DOAC追加が義務付けられており、その時点でアスピリンを中止した例もある。そのような割り付け薬非服用例を除外して解析すると、DOAC群における脳梗塞再発リスクは有意ではないが著明な低下傾向を認めた(HR:0.68、95%CI:0.40-1.16)[Tirschwell DL, et al:オンライン抄録 LBP40]。
ARCADIA試験は米国国立衛生研究所傘下の米国国立神経疾患・脳卒中研究所から資金提供を受けて実施された。またDOACは製薬会社から無償提供を受けた。
今回のISCで話題となったのは先述の通り、ARCADIA試験で用いられた「心房器質異常」マーカーが妥当だったかという点である。米国・コロンビア大学のMitchell S. V Elkind氏は、否定的な解析を報告した。同氏によれば、ARCADIA試験で用いられた「心房器質異常」マーカー中、実際に脳梗塞再発リスクと相関していたのは1つだけだった。
同氏は「心房器質異常」のマーカーとされた「V1誘導P Terminal Force(PTFV1)≧5000μV×ms」「NT-proBNP≧250pg/mL」「左房径指数(LADI)≧3cm/m2」それぞれと「脳卒中」の相関を解析した。その結果、諸因子補正後「脳卒中」リスク上昇と相関していたのは「NT-proBNP」高値のみで、「PTFV1」と「LADI」はまったく相関が認められなかった。評価項目を「脳卒中」ではなく「脳梗塞再発・全身性塞栓症」に変更しても結果は同様で、「PTFV1」と「LADI」の上昇に伴うリスク増加は傾向さえ認められなかった。
ちなみに、ARCADIA試験参加例で「LADI≧3cm/m2」だったのは1.3%のみだった。それ以上左房が拡大するとAFを発症して試験から除外されたからだろう(AF発症前の心房器質異常マーカーとしては不適切)というのが、Elkind氏の見立てだった。
同氏は「NT-proBNP」についても、AFを認めない潜因性脳梗塞の脳梗塞再発マーカーとして優れているとしながらも、本当に「心房器質異常」のマーカーなのか、すなわち他心疾患を反映している可能性がないかを問うた。その上で今後「心房器質異常」のより適切なマーカーを探す必要があると述べ、「異所性興奮」「心MRI所見」「炎症・内皮障害のマーカー」を候補として挙げた。
一方、上記3マーカーとAF発症リスクの相関を検討したのは米国・ワイルコーネル医科大学のHooman Kamel氏である。同氏の前提は「AF発症」こそ「心房器質異常」の目印だというものだった。
解析対象としたのは、ARCADIA試験参加に同意した3745例。実際に参加した1015例ではない。これら3754例中6.8%が参加同意表明後、新規にAFを発症した。
そこで「心房器質異常」マーカーと新規AF発症リスクの関係を見ると、未補正なら「NT-proBNP」「PTFV1」「LADI」のいずれも、高値に伴うAF新規発症リスクの増大を認めた。ただし3マーカーを同じモデルに入れて解析すると、「PTFV1」とAF発症リスク間の相関は消失した。AF発症リスク上昇幅は「NT-proBNP」が最大で、次は「LADI」だった。
この結果は、実際にランダム化された例のみで検討しても同様だった。すなわちAF新規発症リスクと有意に相関していたのは「NT-proBNP」と「LADI」のみであり、「PTFV1」は相関していなかった。
Kamel氏はこの結果から、ARCADIA試験における「心房基質異常」マーカーが「最適ではなかった」とまでは言えないとしながらも、「より重篤な心房器質異常を特定できるマーカー」発見が重要だと強調した。
「心房器質異常」マーカーをめぐるさらなる議論を待ちたい。