一部の一般向け週刊誌でよく見られる「コレステロールを下げると脳出血が増える」という主張は本当だろうか。スイス・ベルン大学のSylvain Bétrisey氏らが大規模ランダム化比較試験(RCT)をメタ解析したところ、LDL-C低下治療群は対照群に比べて脳出血が相対リスクこそ16%の有意上昇を認めたが、絶対リスクで評価すると「6年以上観察して3300例余に1例増加」という計算になった。Journal of the American Heart Association誌上2月7日の報告から紹介する(TG低下治療については割愛)。
今回解析対象とされたのは、LDL-C低下薬が比較群に組み込まれ、脳出血(関連)評価項目が報告されていたRCT 37報である。参加例が1000例未満、あるいは観察期間が2年間未満の試験は除外されている。37試験の登録例数は28万4301例、29.7%が女性だった。
これら37報からデータを抽出し、「LDL-C値低下」と「脳出血」リスクの相関を調べた。
・LDL-C低下治療 vs. 対照
その結果、「LDL-C低下治療」群は「対照」群(プラセボまたはLDL-C低下薬不使用、相対的に弱いLDL-C低下治療)に比べ、脳出血発症「相対リスク」(RR)は1.16(95%信頼区間[CI]:1.01-1.31)の有意高値となっていた(ランダム効果モデル)。ただし両群の脳出血「絶対リスク」差は0.03%(ランダム効果モデル)。したがってNNH(Number Needed to Harm)は3334例(論文では3333例と算出)となる(観察期間平均値6.7年)。対象を脳血管障害1次予防例(7試験、5万5826例)に限定すると、RRで比較しても「LDL-C低下治療」群の脳出血リスクは1.14(95%CI:0.73-1.78)で「対照」群と有意差はなかった。
・LDL-C到達値/低下幅と脳出血リスク
さらに「治療後のLDL-C到達値の高低」も、「脳出血リスク」とはまったく相関していなかった(低下に伴うリスク増加傾向さえ認めず)。同様に「治療に伴うLDL-C低下幅の大小」も、「脳出血リスク」とは相関していなかった(低下幅が大きくともリスクは増加傾向なし)。治療前LDL-C値の高低も、LDL-C低下療法に伴う「脳出血」リスクとは相関していなかった。
Bétrisey氏らはこの結果を「LDL-C低下療法が脳出血リスクを増やすという既存エビデンスを再確認し補強する」ものと評価している。一方、スタチンによる心血管(CV)1次予防例における虚血性イベントNNT(Number Needed to Treat)は5年間で「49」と報告さているとし[Taylor F, et al. 2013]、脳出血リスクのみを理由にスタチン適用例への使用をためらうべきではないともクギをさしている。
なおBétrisey氏は本研究以外にも、スタチンの安全性を調べた論文がある[PubMed]。
本研究は一部の資金をスイス国立科学財団から受けた。