疼痛の背景には何かしらの疾患・損傷が存在することが多い。疼痛に対する治療は,原疾患の治療と同時に行うことが原則である。また,疼痛に対する治療は薬物治療が原則である。疼痛の原因によって薬剤の種類と量が異なることを理解する。
疼痛の原疾患には,致命的で緊急処置が必要な疾患(急性冠症候群,急性大動脈解離,くも膜下出血,腹部大動脈瘤破裂,急性下肢虚血など)が含まれるため,原疾患の鑑別診断を迅速に進める。疼痛の程度が軽くても重症の原疾患が存在しうることに注意する。疼痛の原疾患の鑑別診断を進めるために,疼痛の位置,強さ,性状,経過,放散・移動の有無,増悪寛解因子,随伴症状を聴取する。強い疼痛のため患者が不穏状態であったとしても,多くの場合でこれらの病歴は聴取可能である。同時に,疼痛に関する病歴を聴取する。この際,上述した疼痛に関する聴取が役立つ。これらの情報から,疼痛の物理的原因臓器(神経,骨,軟部組織,胸腹膜,腹腔内臓器など)を推定することが可能であり,特定臓器に作用する薬剤治療を選択することが可能となる。また,患者の状態が安定していれば,マギル(McGill)痛み質問票や日本語版painDETECTなどの疼痛の性質に関する質問票を活用することもできる。疼痛の程度は視覚的アナログスケール,数値評価スケール,表情尺度スケールなどの様々な指標を活用して,客観的に評価する。年齢や認知機能などを考慮して,適切な方法を選択する。医療従事者の印象のみで疼痛の程度を判断してはならない。
疼痛は侵襲刺激に対する生理的反応であるが,その表出には様々な精神認知状態が影響する。たとえば,不安や恐怖は疼痛を増幅し,信頼できる家族や恋人の付き添いは疼痛を軽減する。患者を取り巻く状況を確認することも重要である。
疼痛の原疾患の重症度・緊急度を判断するのに,バイタルサインは有用であるが,疼痛の程度と必ずしも相関しないことに留意する。すなわち,血圧の上昇や頻脈は必ずしも疼痛が原因ではない。
アルコールを含む薬物中毒により意識障害を伴う場合には,疼痛の評価および原疾患の評価が困難であるため,より慎重な検査を計画する必要がある。
強い疼痛の原因となる外傷を認めた場合は,それによって他の疾患・損傷由来の疼痛がマスクされてしまい見逃すことがある。慎重な病歴聴取,系統だった全身の身体診察と検査が必要となる。たとえば,四肢の骨折患者では,頭蓋内病変や腹腔内臓器損傷の疼痛症状を認めないことがある。
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