【QT延長症候群でナドロールが推奨される機序としては,β1非選択性,運動中などの最大心拍数低下作用,弱いNaチャネル遮断による膜安定化作用,1回/日の服用などが報告されている】
ご指摘のように,日本で使用されているβ遮断薬のほとんどは,カルベジロールとビソプロロールです。ともに慢性心不全患者における心保護作用の豊富なエビデンスがあることに加えて,カルベジロールは,β1非選択性で心拍数低下がゆるやかなことや,α遮断作用もあり代謝系(糖代謝,脂質代謝)に対する副作用が抑えられること,ビソプロロールは,β1選択性で喘息などの呼吸器系や代謝系への副作用が少ないことが,広く使用されている理由です。
これに対して,遺伝性不整脈疾患である先天性QT延長症候群(LQTS)では,以前はプロプラノロール,最近ではナドロールが広く使用されており,欧米や日本のガイドラインでもこの2剤が有効なβ遮断薬として推奨されています1)。
実臨床でも,筆者は2型先天性LQTS(LQT2)女性で,喘息のため以前から服用していたプロプラノロールをβ1選択性のビソプロロールに変更したところ,失神発作の頻度が明らかに増えた患者を経験しています。
プロプラノロールは最も古いβ遮断薬で,1980年代からの国際LQTS登録研究で数多くのエビデンスがあったため,これまで広く使用されていました。しかし,最近ではナドロールについて,先天性LQTS患者や,同じく運動中などの交感神経緊張時に心イベントの多いカテコラミン誘発多形性心室頻拍(CPVT)患者において,新たな有効性の報告がされています2)~4)。また,プロプラノロールは半減期が短く3回/日の服用が必要なのに対して(1回/日の徐放製剤もある),ナドロールは半減期が長く1回/日の服用でよいため忍容性が良いことや,最近のプロプラノロールの供給不足などもあり,現在筆者が外来で診ているLQTS患者のほとんどにナドロールを処方しています。
ナドロールの有効性の根拠としては,プロプラノロールと同様にβ1非選択性であることに加え,他のβ遮断薬に比べて,安静時心拍数や血圧に対する影響は変わりませんが,運動中などの最大心拍数を低下させる作用が強いことが報告されています3)。また,ナドロールの持つ弱いNaチャネル遮断による膜安定化作用も心室性不整脈を抑える効果があるとされています3)5)。
遺伝子型別では,LQT1患者に比べてβ遮断薬の有効性が低いLQT2患者で,特に有効性が高いことも報告されています6)。欧米では,12歳以上の患者には,1回/日,1~1.5mg/kgの内服が推奨されていますが,筆者は初期投与量を0.5mg/kg(ナディック®錠30mg)から開始することが多く,日本人の場合はナディック®錠30mgでも十分効果がある印象です。
【文献】
1)日本循環器学会, 他:遺伝性不整脈の診療に関するガイドライン(2017年改訂版). 2018.
2)Ackerman MJ, et al:Heart Rhythm. 2017;14(1): e41-4.
3)Leren IS, et al:Heart Rhythm. 2016;13(2):433-40.
4)Chockalingam P, et al:J Am Coll Cardiol. 2012; 60(20):2092-9.
5)Besana A, et al:J Cardiovasc Pharmacol. 2012; 59(3):249-53.
6)Abu-Zeitone A, et al:J Am Coll Cardiol. 2014; 64(13):1352-8.
【回答者】
清水 渉 日本医科大学大学院医学研究科循環器内科学分野教授