かぜ症候群は,急性上気道炎や感冒など様々な表現があるが,いずれも主にウイルスが原因の自然軽快する気道感染症と言うことができる。かぜ症候群と正確に診断するには,類似した種々の疾患の除外も必要である。咳,鼻汁,咽頭痛の3症状が同時期に同程度存在することを典型的なかぜ症候群として,そこから鑑別を広げていくとよい。2023年,「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」が改訂され,新たな目標設定もされるなど,抗菌薬適正使用の観点からもかぜ症候群は重要である。本稿では,かぜ症候群とそれ以外の類縁疾患との区別を中心に解説する。
かぜ症候群(以下,かぜ)は,そのほとんどがウイルス感染症であり,ライノウイルスやコロナウイルスなどが原因微生物として挙げられる。あくまで気道感染症であるため,症状としては気道に関連した,①咳,痰,②鼻汁,鼻閉,③咽頭痛,について考えるとよく,特にこれら3つの症状が同時期に同程度存在することを「かぜ」として扱う。典型的には,大体数日の間に倦怠感とともに咽頭の違和感や咽頭痛から始まり,その後鼻汁が出て,最後に咳が出はじめる,といった経過である。また,同じような上気道症状がそろっていても,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)やインフルエンザといった特異的な治療法が存在する疾患については,流行状況なども参考に迅速抗原検査や遺伝子検査も併用し,鑑別を進めていくとよい。
気道に関連した症状のうち,いずれかが明らかに強い場合,それぞれ咳や痰であれば気管支炎や肺炎,鼻汁や鼻閉であれば急性副鼻腔炎,咽頭痛であれば細菌性咽頭炎や急性喉頭蓋炎など,抗菌薬が必要な疾患,あるいは緊急性の高い疾患が鑑別疾患になる(急性気管支炎については,基礎疾患のない成人において抗菌薬投与は推奨されない)。加えて,発熱のみで気道症状を伴わないものを安易にかぜとは診断しないほうがよい。インフルエンザやCOVID-19の流行期に,発熱患者について迅速検査で陰性であったため,かぜとして経過観察や対症療法とすることは少なからずあると思われる。しかし,その場合にも気道症状の有無は重要で,気道症状がない発熱で,結果的に腎盂腎炎や蜂窩織炎など他部位の感染症であったことが,後日判明することも少なくない。
かぜと診断した場合,基本的には対症療法であり,患者自身の症状で最もつらいものから順に対応していくことが多い。上述の咳,痰,鼻水,鼻閉,咽頭痛と発熱に,それぞれ対症療法を行う。総合感冒薬はアセトアミノフェンの含有量が少なく,抗ヒスタミン薬もセットで入っているため,高齢者には使いにくいことから,優先順位は低くなる。漢方薬はかぜ診療において非常に強力なツールとなり,かぜ全般に用いるものから,対症療法として用いるものまで幅広く存在している。
ここでは紙幅の都合上,かぜ全般に用いるものから一部のみ紹介する。
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