「善玉コレステロール」とされるHDL-Cだが、その増加がアテローム性動脈硬化によるイベントを減らすというエビデンスはない。フィブラート、CETP阻害薬のいずれも、それらイベントを抑制しなかった [Keene D, et al. 2014] 。「コレステロール逆転送」能が不十分だった可能性が指摘された。
そこで注目されたのが、「逆転送」亢進作用がすでに報告されている「(ヒト)アポA1製剤」(CSL112)である。ランダム化比較試験(RCT) "AEGIS-II" において、心筋梗塞(MI)後例の心血管系(CV)転帰作用がプラセボと比較された。しかしやはり、有意な抑制作用は認められなかった。4月6日から米国アトランタで開催された米国心臓病学会(ACC)学術集会において、ハーバード大学(米国)のC. Michael Gibson氏が報告した。
ただしLDL-Cが十分に低下していない例では、有用性を示唆するデータも得られており、今後の展開も注目される。
AEGIS-IIの対象は、MI発症後5日間以内で、多枝病変とCVリスク因子を認める1万8219例である。49カ国の886施設から登録された。
・背景因子
平均年齢は66歳、男性が74%を占めた。MIはST上昇型(STEMI)と非ST上昇型(NSTEMI)がほぼ半数ずつで、88%が経皮的冠動脈形成術(PCI)を施行されていた。
MIに対する薬剤治療は、スタチン、アスピリン、その他抗血小板薬のいずれも服用率は93%と高かった。また試験開始時のLDL-C中央値は84 mg/dL、HDL-Cが39 mg/dLだった。
これら1万8219例は「アポA1製剤」静注群と「プラセボ」静注群にランダム化され、最長365日間、二重盲検法で観察された。「アポA1」「プラセボ」とも「週1回」静注を4週続けて実施した。
・主解析
その結果、1次評価項目である90日間「CV死亡・心筋梗塞・脳卒中」リスクに、両群間で有意差はなかった。すなわち「アポA1製剤」群におけるハザード比は0.95(95%信頼区間[CI]:0.81-1.05)だった。観察期間を180日間、365日間と延長して解析しても同様で、有意な群間差には至らなかった。またいずれのサブグループも、90日観察時点では両群間に有意差を認めなかった。
・探索的(後付)解析
一方、開始時LDL-C値の高低で2群に分けた探索的解析は興味深い結果となった。
すなわちスタチン服用下でLDL-C値「<100 mg/dL」だった1万427例では、「アポA1製剤」群と「プラセボ」群間に「CV死亡・心筋梗塞・脳卒中」リスクの差はほぼ皆無だった一方、LDL-C値「≧100 mg/dL」だった5169例では「アポA1製剤」群における有意なリスク低下が観察された。
具体的には、90日後HRが0.69(95%CI:0.53-0.90)、180日後も0.71(0.57-0.88)、365日後が0.78(0.65-0.93)である。「アポA1製剤」群と「プラセボ」群の発生率曲線乖離は、試験開始後45日を待たずに始まっていた。
同様の差は「CV死亡」「MI」のみで解析しても認められた。
本試験はネガティブだったが、アポA1製剤は安全性にも特に問題がなかったためGibson氏は、LDL-C高値例のみを対象としたRCTを組む価値があると考えている。
なお指定討論者として登壇したAnn Marie Navar氏は「LDL≧100 mg/dL」例サブ解析を過信せぬよう注意を促した。根拠のひとつはフィブラートを用いたRCTだ。複数のサブグループ解析が、低HDL-Cを呈する高トリグリセライド血症例におけるCVイベント抑制作用を示していたが、前向きに検討したRCT "PROMINENT"はネガティブだった。そのためGibson氏同様、新たなRCTで確認する必要性を唱えている。
本試験はCSL Behringから資金提供受けて実施された。また報告と同時にNEJM誌ウェブサイトで論文が公開された。