涙囊炎は,涙道通過障害により細菌感染を起こした炎症性疾患であり,通常は片側性であるが,時に両側性に認める。涙道通過障害の原因は先天性と後天性があり,涙囊炎の病態としては急性型と慢性型にわけられる。
眼脂と流涙症状が特徴であり,急性の場合は涙囊部の腫脹と疼痛を伴う。涙管通水検査が診断に有用である。
先天鼻涙管閉塞は,鼻涙管開口部が膜状に閉鎖していることが原因であり,生下時直後から認める流涙と眼脂が主要症状である。涙管通水検査にて診断するが,色素残留試験でも診断可能である。生後1年までに90%以上が自然治癒するとされており,眼脂の多いときのみ抗菌薬点眼を処方して,経過観察をする。症状の強いときや,保護者が希望する場合には,生後6カ月を過ぎてから先天鼻涙管閉塞開放術(プロービング)を行う1)。本疾患において急性涙囊炎を起こした場合の治療は,以下の【急性涙囊炎】に準ずる。
涙囊部に急速に出現する発赤,腫脹を認め疼痛を伴う。涙道周囲への炎症の波及による蜂窩織炎を合併することが多い。慢性涙囊炎が急性増悪した状態が多く,慢性涙囊炎の既往を確認する。視診にて涙道部の発赤と腫脹を認める。経過が長い場合には自壊して排膿を認めることもある。抗菌薬の全身投与による速やかな消炎を行うことが重要であり,膿瘍を形成しているときは切開排膿を行う。炎症が沈静化した後は,以下の【慢性涙囊炎】の治療に準ずる。
持続する流涙と眼脂を認め,難治性の慢性結膜炎を合併することが多い。涙囊が腫脹している場合は,涙囊部圧迫による貯留物の逆流がある。涙管通水検査では通過せず,膿の逆流を認めることが多い。涙道内視鏡検査を行うと,より正確な閉塞部位などの詳細な状態が確認できる2)。
治療は基本的に外科的治療であり,涙管チューブ挿入術と涙囊鼻腔吻合術(DCR)がある。涙管チューブ挿入術は,涙道内視鏡を用いる方法が主流となり,手術成績が向上している。DCRは皮膚側からアプローチするDCR鼻外法と,鼻腔側からアプローチするDCR鼻内法があり,手術成績はどちらも90%以上と良好である。手術方法の選択に明確な基準はないが,急性涙囊炎後,外傷や鼻腔手術後,腫瘍が疑われる症例などはDCRが望ましい。
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