SGLT2阻害薬は2型糖尿病(DM)例の心不全(HF)入院減少作用が、ランダム化比較試験(RCT)から報告されている。しかし対象はすべて心血管系(CV)疾患既往、ないし複数のCVリスク因子を有するCV高リスク例である [Wahinya M, et al. 2023] 。
しかしCV低リスクであってもSGLT2阻害薬は、他の血糖降下薬に比べHF入院を抑制するようだ。6月21日から米国オーランドで開催された米国糖尿病学会(ADA)学術集会において、米国大規模実臨床データ解析の結果として、ブリガム・アンド・ウィミンズ病院(米国)のHelen Tesfaye氏が報告した。
解析対象となったのは米国在住で、以下の4種類の血糖降下薬のいずれかを開始した、CV疾患既往のない2型DM例およそ150万例である。CVリスク因子の有無は問わない。診療報酬情報(高齢者公的保険と2民間保険)に基づくデータベースから抽出した。
これら約150万例を以下の6グループに分け、「HF入院」リスクを比較した。グループ分けにあたっては、傾向スコアを用いて背景因子が揃う組み合わせを抽出した。
・SGLT2阻害薬 vs. GLP-1-RA(24万736例ずつ。マッチング前は36万 vs. 32万 [概数] )
・SGLT2阻害薬 vs. DPP-4阻害薬(同:22万3367例。31万 vs. 41万)
・SGLT2阻害薬 vs. SU剤(同:15万051例。28万 vs. 58万)
・GLP-1-RA vs. DPP-4阻害薬(同:19万1724例。37万 vs. 32万)
・GLP-1-RA vs. SU剤(同:12万3540例。 26万 vs. 59万)
・DPP-4阻害薬 vs. SU剤(16万5597例。28万 vs. 52万)
・背景因子
平均年齢は60歳弱、約半数が女性だった。人種としては白人が圧倒的に多く約70%を占めた。血糖降下薬はおよそ80%がメトホルミンを併用していた。また心血管系リスク因子としては、高血圧、脂質異常がいずれも合併率は約70%だった。推算糸球体濾過率平均値は概ね90 mL/分/1.73m2だった。
・HF入院リスクと発生率
平均11カ月の観察期間後、HF入院リスクが最も低かったのは「SGLT2阻害薬」だった。すなわち、GLP-1-RA群と比べてもハザード比(HR)は0.65(95%信頼区間[CI]:0.51-0.82)、発生率は0.98 vs. 1.61/1000人年だった。
同様に対DPP-4阻害薬のHRも0.45(95%CI:0.36-0.56)、発生率は0.91 vs. 2.17/1000人年。対SU剤ならHRは0.46(95%CI:0.38-0.60)、1.05 vs. 2.25/1000人年だった。
SGLT2阻害薬に次いで「HF入院」リスクが低かったのは「GLP-1-RA」である。対DPP-4阻害薬HRは0.71(0.58-0.87)、発生率は1.62 vs. 2.35/1000人年だった。
一方、DPP-4阻害薬とSU剤間に「HF入院」リスクに有意差はなかった。なお、メトホルミン非併用例のみを対象とした比較結果は提示されなかった。
本研究は Patient-Centered Outcomes Research Institute(臨床試験出資非営利団体)から資金提供を受けた。
試験のデザイン設計・実施・解釈は原著者らが100%担当した。