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■NEWS【ADA報告】GLP-1-RAによるメンタル面への影響を実臨床データで検討、高齢者では安全性確認―大規模観察研究

登録日: 2024-07-09

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中枢に作用する食欲抑制剤としては約15年前、カンナビノイド受容体阻害剤Rimonabantが欧州では一時期使用されていたが、自殺リスクへの懸念から発売中止となった(米国では未承認)。そのためだろうか、まったく機序が異なるGLP-1-RAに対しても、同様の懸念を持つ向きがあった [FDAリリース] 。しかし欧州医薬品局(EMA)は本年4月に、「GLP-1-RAと自殺/自傷念慮・実行間の因果関係を支持するエビデンスはない」とする報告書を公表した(米国食品医薬品局は本年3月時点で結論に至らず)。

6月21日から米国オーランドで開催された米国糖尿病学会(ADA)学術集会でも、この点を検討した大規模観察研究が報告された。少なくとも高齢者ではGLP-1-RAによる自殺/自傷リスクの上昇はないようだ。フロリダ大学(米国)のHuilin Tang氏が報告した。

【対象】

解析対象となったのは、65歳以上でGLP-1-RASGLT2阻害薬、DPP-4阻害薬のいずれかを開始した2型糖尿病(DM)およそ15万例である。ただし「自殺念慮・試行」の既往がある例は除外されている。

【方法】

これら約15万例から、傾向スコアで背景因子をマッチさせた「GLP-1-RA vs. SGLT2阻害薬」(2万1807例ずつ)と「GLP-1-RA vs. DPP-4阻害薬」(同:21402例)を抽出した(ただしHbA1cBMIはマッチできず)。評価項目は「自殺念慮・試行と自傷」である。平均年齢は73歳、女性が半数超だった。

【結果】

GLP-1-RA vs. SGLT2阻害薬

両剤間に「自殺念慮・試行と自傷」リスクの差はなかった。すなわちGLP-1-RA群におけるハザード比(HR)は1.0795%信頼区間[CI]:0.801.45)。発生率は3年間で0.7%弱だった。

・GLP-1-RA vs. DPP-4阻害薬

こちらも同様に両群間の「自殺念慮・試行と自傷」リスクに差はなかった。GLP-1-RA群のHR0.94(同:0.711.24)である。発生率はこちらのコホートでも3年間で0.8%弱だった。

いずれの解析でも、結果はさまざまなサブグループに共通しており、また個々のGLP-1-RA間にも差はなかった。

【考察】

今回の解析は高齢者の2型DM例が対象であるため、Tang氏はこの結果が「若年者」や「非DM(肥満)例」に当てはまるかは不明だと考察していた。なお本研究で観察された「自殺念慮・試行と自傷」発生率は、ランダム化比較試験データ併合から明らかになったGLP-1-RAに伴う「自殺念慮・試行」率(0.2100人年)にも近い [O‘Neil PM, et al. 2017] 。

また本学会では、セマグルチド2.4 mg8803例が使用したSELECT試験からも、長期の有害事象データが報告されている。それによれば3年超使用後の「自殺(念慮・試行・遂行)」発生率はセマグルチド群で0.11%となり、プラセボ群の0.10%と同等だった。なおかつてスタチンも、上市直後から数年間は精神面への悪影響が懸念されていた。

本研究に関する利益相反は開示されなかった(報告者の受けたグラントのみ)。

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