「過剰な体脂肪に伴う発がんリスク上昇」と「意図的減量による発がんリスク低減の可能性」が指摘されている [Lauby-Secretan B, et al. 2016] 。そのため肥満に関連するとされる13のがんに対して、減量作用を有するGLP-1-RAによる「肥満関連がん発生抑制」が期待された。しかしインスリンとの比較では多くのがんを抑制していたものの、メトホルミンを上回る抑制作用は観察されず、逆に腎がんリスクはメトホルミンよりも高くなっていた。ケース・ウェスタン・リザーブ大学(米国)のLindsey Wang氏らが7月5日、JAMA Network Open誌で報告した。
解析対象の母体は、米国在住で「肥満関連がん」の履歴がなく、GLP-1-RAかインスリン、メトホルミンを処方されていた2型DM 165万1452例である。全国的な電子健康記録(EHR)から抽出した。平均年齢は59.8歳、女性が47.0%を占めた。「肥満関連がん」とは以下の13臓器の少なくともいずれかに発生したがんを指す。
※食道、乳房、大腸、子宮、胆嚢、胃、腎、卵巣、膵臓、甲状腺、肝細胞、髄膜、骨髄(多発性)
上記165万1452例からまず、GLP-1-RAのみ処方(インスリンやメトホルミンの併用なし:14万9690例)とGLP-1-RAを併用していないインスリンのみ処方(104万4745例)とメトホルミンのみ処方(85万6160例)を抽出した。そのうえで傾向スコアを用いて背景因子をマッチできた集団間で、肥満関連がん発生リスクを比較した。観察期間は最長15年である。
比較された群の詳細は以下の通り。
・「GLP-1-RA・非メトホルミン群」(3万2365例) vs. 「メトホルミン・非GLP-1-RA群」(85万6160例)
・「GLP-1-RA・非インスリン群」(4万8983例)vs. 「インスリン・非GLP-1-RA群」(104万4745例)
・GLP-1-RA vs. メトホルミン
その結果、「GLP-1-RA・非メトホルミン群」と「メトホルミン・非GLP-1-RA群」間では、腎がんを除き「肥満関連がん」発生リスクに有意差はなかった。
唯一の例外だった「腎がん」リスクは、「GLP-1-RA・非メトホルミン」群で有意に高かった(ハザード比 [HR]:1.54、95%信頼区間[CI]:1.27-1.87。発生率は0.78 vs. 0.55%。Number Needed to Harm:435)。
・GLP1-RA vs. インスリン
他方「インスリン・非GLP-1-RA」群との比較では、「GLP-1-RA・非インスリン」群において「乳がん」「胃がん」「甲状腺がん」を除くすべての「肥満関連がん」で発生リスクは有意に低値となっていた。腎がんHRも0.76(95%CI:0.64-0.91)である(発生率は0.46 vs. 0.59%。Number Needed to Treat:770)
Wang氏らによれば、GLP-1-RAに伴う腎がんリスク上昇はこれまでに報告されていないという。そのため同氏らは、さらなる研究が必要ではあるが、日常臨床では継続的なモニタリングが必要だろうとしている。
本研究は米国国立がん研究所、米国がん学会などから資金提供を受けた(製薬企業からの供与はなし)。