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【文献 pick up】NT-proBNP値の高低でHFmr/pEF例のCVリスクにどれほど差?― JACC HF誌

宇津貴史 (医学レポーター)

登録日: 2024-08-20

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過去数年にわたり、左室機能軽度低下/維持心不全(HFmrpEF)に対するSGLT2阻害薬の心血管系(CV)転帰改善作用を報告するランダム化比較試験(RCT)が相次いだ。しかしその対象は高リスクHFmrpEF例のみだった可能性がある。グラスゴー大学(英国)の近藤 徹氏らがRCT"I-PRESERVE"を後付解析した結果、明らかになった。JACC HF誌8月号掲載論文ではさまざまな解析が示されているが、ここではRCT適格性を中心に紹介する。

【対象】

解析した"I-PRESERVE" の対象者(登録:2002年~2005年)は、60歳以上で「EF45%」の症候性HFである。「NT-proBNP高値」は導入基準に含まれていない。4128例がARB群とプラセボ群にランダム化された。今回はその中から、試験開始時のNT-proBNP値が明らかだった3480例が解析された。

【方法】

これら3480例を試験開始時NT-proBNP値「<125 pgmL」群と「≧125 pgmL」群に分け、「CV死亡・HF入院」率を比較した(ARB群、プラセボ群併合)。NT-proBNP値「125 pgmL」は2021年版ESCガイドラインにおける慢性心不全診断正常上限値である。

 【結果】

・NT-proBNP値の分布

3480例中23%808例)は試験開始時NT-proBNP値が「<125 pgmL」だった。なお、近時のHFmrpEF臨床試験“DELIVER”(登録:2018年~2022年)で用いられたNT-proBNP基準値(AFなしで「>300pgmL」、AF合併で「>600 pgmL」)をI-PRESERVE試験で満たしていたのは51%のみだった。ちなみに“EMPEROR-Preserved”試験2021年)の基準値もほぼ同様だが、AF合併例では値がより高い「>900pgmL」だった。

・CV死亡・HF入院

CV死亡・HF入院」発生率は、NT-proBNP値「<125pgmL」群に比べ「≧125 pgmL」群で有意かつ著明に高かった(2.1 vs. 8.8100人年)。さらにNT-proBNP値がAFなしで「>300pgmL」例、AF合併で「>600 pgmL」例に限ると、「CV死亡・HF入院」発生率は「≧125 pgmL」群全体よりもさらに有意な高値となっていた(11.5100人年)。 

・総死亡

「総死亡」も同様で、NT-proBNP値「<125 pgmL」群に比べ「≧125 pgmL」群では、発生率は有意に高くなっていた(2.0 vs. 6.4100人年)。

またNT-proBNP値がAFなしで「>300pgmL」例、AF合併で「>600 pgmL」例における「総死亡」発生率は7.9100人年だったが、「≧125 pgmL」群(6.4100人年)との差は有意に至らなかった。

【考察】

近藤氏らは「実臨床のHFmrpEF例」には多くの「NT-proBNP値<125 pgmL」例が含まれているだろうと考察するとともに、I-PRESERVE試験に参加したHFmrpEF例の相当数が、近時のHFmrpEF試験に適格でない点も注目に値するとしている。そのようなNT-proBNP著明高値を認めないHFmrpEF例に対してもSGLT2阻害薬は有用だろうか。

本試験そのものに対する資金提供の有無は明記されていない。

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