過去数年にわたり、左室機能軽度低下/維持心不全(HFmr/pEF)に対するSGLT2阻害薬の心血管系(CV)転帰改善作用を報告するランダム化比較試験(RCT)が相次いだ。しかしその対象は高リスクHFmr/pEF例のみだった可能性がある。グラスゴー大学(英国)の近藤 徹氏らがRCT"I-PRESERVE"を後付解析した結果、明らかになった。JACC HF誌8月号掲載論文ではさまざまな解析が示されているが、ここではRCT適格性を中心に紹介する。
解析した"I-PRESERVE" の対象者(登録:2002年~2005年)は、60歳以上で「EF≧45%」の症候性HFである。「NT-proBNP高値」は導入基準に含まれていない。4128例がARB群とプラセボ群にランダム化された。今回はその中から、試験開始時のNT-proBNP値が明らかだった3480例が解析された。
これら3480例を試験開始時NT-proBNP値「<125 pg/mL」群と「≧125 pg/mL」群に分け、「CV死亡・HF入院」率を比較した(ARB群、プラセボ群併合)。NT-proBNP値「125 pg/mL」は2021年版ESCガイドラインにおける慢性心不全診断正常上限値である。
・NT-proBNP値の分布
3480例中23%(808例)は試験開始時NT-proBNP値が「<125 pg/mL」だった。なお、近時のHFmr/pEF臨床試験“DELIVER”(登録:2018年~2022年)で用いられたNT-proBNP基準値(AFなしで「>300pg/mL」、AF合併で「>600 pg/mL」)をI-PRESERVE試験で満たしていたのは51%のみだった。ちなみに“EMPEROR-Preserved”試験(2021年)の基準値もほぼ同様だが、AF合併例では値がより高い「>900」pg/mL」だった。
・CV死亡・HF入院
「CV死亡・HF入院」発生率は、NT-proBNP値「<125pg/mL」群に比べ「≧125 pg/mL」群で有意かつ著明に高かった(2.1 vs. 8.8/100人年)。さらにNT-proBNP値がAFなしで「>300pg/mL」例、AF合併で「>600 pg/mL」例に限ると、「CV死亡・HF入院」発生率は「≧125 pg/mL」群全体よりもさらに有意な高値となっていた(11.5/100人年)。
・総死亡
「総死亡」も同様で、NT-proBNP値「<125 pg/mL」群に比べ「≧125 pg/mL」群では、発生率は有意に高くなっていた(2.0 vs. 6.4/100人年)。
またNT-proBNP値がAFなしで「>300pg/mL」例、AF合併で「>600 pg/mL」例における「総死亡」発生率は7.9/100人年だったが、「≧125 pg/mL」群(6.4/100人年)との差は有意に至らなかった。
近藤氏らは「実臨床のHFmr/pEF例」には多くの「NT-proBNP値<125 pg/mL」例が含まれているだろうと考察するとともに、I-PRESERVE試験に参加したHFmr/pEF例の相当数が、近時のHFmr/pEF試験に適格でない点も注目に値するとしている。そのようなNT-proBNP著明高値を認めないHFmr/pEF例に対してもSGLT2阻害薬は有用だろうか。
本試験そのものに対する資金提供の有無は明記されていない。