腎機能のほぼ途絶した高齢者は、即座に透析に移行すべきだろうか。米国退役軍人データを用いた仮想ランダム化比較試験の結果は、これに疑問を呈するものだった。早期に透析を導入しても79歳以下では生存は改善せず、また80歳以上では生存期間は延長するものの、自宅で過ごせる時間が短くなっていたのだ。スタンフォード大学(米国)のMaria E. Montez-Rath氏らが8月20日、Annals of Internal Medicine誌で報告した。
今回実施されたのは、米国退役軍人データベースを用いた「標的試験エミュレーション」(target trial emulation:TTE)、すなわち観察データを用いた擬似ランダム化比較である。
末期腎不全後の「早期透析導入」と透析非導入の「薬剤治療のみ」(後述)が、「生存」と「自宅で過ごす時間」に及ぼす影響が比較された。なお「早期透析導入」群と「薬剤治療」群間の背景因子バラツキは、逆確率重み付け(IPWT)で補正した。
TTEに組み込まれたのは、年齢が「65歳以上」で推算糸球体濾過率(eGFR)「<12 mL/分/1.73m2」だった2万440例である(平均年齢77.9歳)。「透析導入後」と「腎移植後」「腎移植検討」「ステージ2以上の急性腎障害」などは除外されている。
これら2万440例中8854例がeGFR「<12 mL/分/1.73m2」へ低下後、30日以内に透析を開始していた(早期透析導入群)。透析導入までの期間中央値は8日で、94.6%を血液透析が占めた。
一方、30日以内に透析を開始しなかった「薬剤治療」群でも、49%が3年以内に透析を開始していた。
・死亡リスク
その結果、「早期透析開始」群の「薬剤治療」群に対する死亡ハザード比(HR)は0.99(95%信頼区間[CI]:0.91-1.08)。有意な低下は認められなかった(ITT解析)。この結果は年齢を「65~79歳」と「80歳以上」に分けて解析しても同様だった。
・生存期間と在宅日数
平均生存期間は「早期透析開始」群全体で770日、「薬剤治療」群は761日だった(有意差なし [NS])。
ただし「65~79歳」では「薬剤治療」群の方が「早期透析開始」群に比べ、生存期間はむしろ長い傾向が認められた(群間差:16.6日、NS)。さらに在宅日数は「薬剤治療」群で有意に長くなっていた(群間差:14.4日)。一方「80歳以上」では「早期透析開始」群の方が生存期間は有意に延長されていたものの(群間差:60日)、在宅日数は逆に12.9日間、有意に短かった。
Montez-Rath氏らは、今回対象となったような患者は往々にして、透析に「非現実的な便益を期待し、(故に)透析開始直後から大きな後悔を経験する」との認識を示し、透析導入に当たっては導入が患者個々人の価値や望みを叶えるかどうか、よく考慮する必要があると結論している。
本研究筆者は米国退役軍人省と米国国立衛生研究所からのグラントを受けた。