ミネラルコルチコイド受容体(MRA)は慢性腎臓病(CKD)例の心血管系イベント抑制作用が、フィネレノンを用いたランダム化比較試験(RCT)"FIGARO-DKD" において示されている。しかし試験から除外されていた糖尿病(DM)非合併のCKD例、あるいはアルブミン尿を認めないCKD例では、MRAによる心血管系保護作用に疑問符がつくかもしれない。スピロノラクトンを用いたRCT"BARACK-D"の結果、明らかになった。オックスフォード大学(英国)のF. D. Richard Hobbs氏らが9月30日、Nature Medicine誌で報告した。
BARACK-D試験の対象は、英国プライマリケアを受診中だった「ステージ3b」CKDの1372例である。ただし「心不全/左室駆出率<40%」例、「直近半年間の心筋梗塞既往」例などは除外されている。また「高カリウム血症」既往例も除外された。
平均年齢は74.8歳、女性が54.5%を占めた。推算糸球体濾過率(eGFR)平均は43.5mL/分/1.73m2、診察室血圧平均は138/77mmHgだった。レニン・アンジオテンシン系阻害薬の服用率はACE阻害薬が40.0%、ARBは36.6%である。一方、SGLT2阻害薬服用例は4例のみだった(本試験の登録時期が2018年までだったため)。
これら1372例は通常治療に低用量スピロノラクトン(25mg/日)を追加する群と非追加群にランダム化され3年間観察された。1次評価項目は「死亡・心疾患による入院・心不全・脳血管障害・末梢動脈疾患」(死亡・血管系疾患)である。試験参加者と医療従事者に治療群は盲検化されていないが、評価項目確認者は治療群を知らされていなかった(PROBE法)。
・死亡・血管系疾患
その結果、「死亡・血管系疾患」発生率は、スピロノラクトン追加群(16.7%)と非追加群(16.0%)間に有意差を認めなかった。
・2次評価項目
同様に「心疾患による入院」も、スピロノラクトン追加群(5.8%)と非追加群(6.0%)間に差はなかった。「脳・心・血管疾患」(9.7 vs. 8.8%)、「死亡」(6.2 vs. 5.5%)も同様である。
冒頭で記した通り、同じMRAでも非ステロイド型のフィネレノンは、CKD例に対する心血管系イベントリスク抑制が、腎保護作用検証RCT"FIDELIO-DKD"を併合したメタ解析でも認められている[FIDELITY併合解析]。
今回BARACK-D試験でそのような有効性が認められなかった理由としてHobbs氏らは、①スピロノラクトンとフィネレノン間の薬効差の可能性を挙げると同時に、②BARACK-D試験とFIDELITY併合解析の対象患者の差が影響した可能性にも言及した。すなわちFIDELITY併合解析が対象としたCKDは2型DMを合併し、かつアルブミン尿陽性例だった。一方BARACK-D試験の対象となったCKD例のDM合併率は24.3%のみ、アルブミン尿の有無は導入基準に含まれていない。またFIDELITY併合解析に比べ高齢だった可能性も高い(平均74.8歳 vs. 64.8歳)。
このため、DMやアルブミン尿を認めない高齢CKD例では、FIDELITY併合解析で示されたMRAの有効性が得られるか疑問であると、Hobbs氏らは考察している。
本研究は英国国立健康研究所から資金提供を受けた。