薬剤性肺障害とは「薬剤を投与中に起きた呼吸器系の障害の中で,薬剤と関連するもの」と定義される。肺胞・間質領域病変,気道病変,血管病変などいくつかの臨床病型に分類されるが,最も発生頻度が高いのは薬剤性間質性肺炎である。日本における薬剤性間質性肺炎の原因薬剤は抗悪性腫瘍薬が半数以上を占め最も多いが,漢方薬,リウマチ治療薬,抗不整脈薬などあらゆる医薬品をはじめ,市販薬や健康食品・サプリメントでも発症することがある。薬剤投与開始後90日以内に発症する症例が多いと考えられるが,時に1年以上経過してから発症する場合もある。
薬剤性肺障害の診断には,すべての薬剤は肺障害を起こす可能性があり,薬剤投与中のみならず投与終了後にも発生することを念頭に置き,まず疑うことが重要である。
新たな肺病変の出現に際して薬剤性肺障害の発症を検討しつつ,感染症,心原性肺水腫,既存の肺病変の増悪などと鑑別する。特に免疫能や感染防御能が低下した症例では,ニューモシスチス肺炎などの日和見感染症を含めた感染症との鑑別が重要である。他の原因疾患が否定され,被疑薬の中止や副腎皮質ステロイドの投与により病態が改善すれば可能性が高くなる。
治療の基本は原因薬剤の中止である。呼吸不全がなく軽症の場合には,被疑薬の中止のみで慎重に経過観察をする。ただし,薬剤の中止だけでは病態が悪化する場合や,診断時に既に呼吸不全を伴う,またはそれに近い状態である中等症もしくは重症の場合には副腎皮質ステロイドの投与を行う。気管支鏡を用いた気管支肺胞洗浄は呼吸器感染症の除外に有用であり,また気管支肺胞洗浄液の細胞分画は治療方針の参考になるため,積極的に検討する。
副腎皮質ステロイドの用量や治療期間に明確なエビデンスはないが,中等症ではプレドニゾロン換算で0.5~1.0mg/kg/日から開始し,治療反応をみながら漸減・中止する。重症の場合は,ステロイドパルス療法から開始し,プレドニゾロン換算で0.5~1.0mg/kg/日で継続し,治療反応をみながら漸減していくが,ステロイド投与で改善が乏しい場合には免疫抑制薬の追加を検討する。
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