肺血栓塞栓症は,下肢および骨盤などの深部静脈血栓が肺動脈を閉塞し,急性および慢性の肺循環障害を生じさせる病態を指す。
急性肺血栓塞栓症では,呼吸困難,胸痛などの臨床症状が認められる場合,まず本症を念頭に置くことが重要で,強く疑う場合は直ちに,ほかはd-dimer上昇を確認後,造影CTで血栓を描出し診断する(造影CT禁忌例は肺換気-血流スキャン)。慢性血栓塞栓性肺高血圧症は,労作時息切れを呈し,心エコー上の肺高血圧所見で疑い,肺換気-血流スキャン上での換気に異常を認めない区域性欠損の存在,カテーテル検査での前毛細血管性肺高血圧症,肺動脈造影での慢性変化から診断する。
急性肺血栓塞栓症の治療は,速やかに抗凝固療法を行うことが基本である。ショックや低血圧を呈する例は広範型(高リスク群)で,再灌流療法(血栓溶解療法,外科的血栓摘除,カテーテル治療)の適応となる。非ショック例は,画像で右室機能障害を認める亜広範型,それ以外の非広範型にわけられ,亜広範型と,非広範型で「簡易版肺塞栓症重症度スコア(年齢>80歳,がん,心肺疾患,脈拍数≧110回/分,収縮期血圧<100mmHg,SaO2<90%,各1点で計6点)」が1点以上の場合は中間リスク群に分類される。さらに中間リスク群は,血液検査(トロポニン)が陽性の場合は中間[高]リスク群,陰性の場合は中間[低]リスク群に細分される。ともに入院の上,抗凝固療法を行うが,中間[高]リスク群では慎重なモニタリングが必要である。一方,低リスク群では短期入院や外来加療も考慮される1)。Xa阻害薬である直接経口抗凝固薬が,低~中間リスク群の患者では第一選択となっている(ただし抗リン脂質抗体症候群ではワルファリン)。
なお,抗凝固薬の投与期間は,術後など可逆性因子を持つ患者では3カ月間,明らかな誘因のない例や先天性凝固異常では,少なくとも3カ月(リスクとベネフィットで期間を決定),がん患者や再発例ではより長期とする。
慢性血栓塞栓性肺高血圧症は指定難病に認定されており,生涯の抗凝固療法が必要である。手術でアプローチ可能な中枢側に血栓を認めた場合は肺動脈内膜摘除術,末梢型では肺血管拡張薬やバルーン肺動脈形成術の適応を考慮する1)。
残り1,571文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する