網膜静脈が障害されると,血液が灌流できなくなるために,網膜内に大小様々な出血が生じる。網膜静脈閉塞症(retinal vein occlusion:RVO)は,閉塞部位の違いにより,網膜中心静脈閉塞症(central retinal vein occlusion:CRVO)と網膜静脈分枝閉塞症(branch retinal vein occlusion:BRVO)にわけられる。視神経内で閉塞するとCRVOとなり眼底全体に出血が生じる。また,動脈静脈交叉部で静脈が狭窄するとBRVOとなり,扇形の出血がみられる。さらに,網膜中心静脈は通常1本であるが,2本存在する場合があり,その1本が閉塞した場合,半側網膜中心静脈閉塞症(hemi-CRVO)と呼ぶ。
高血圧や脂質異常症などの関与が示唆されているが,発症メカニズムはいまだ解明されていない。疾患名は昔から“閉塞”と記載されるが,実際のBRVO眼の動静脈交叉部における静脈は閉塞しておらず,内腔は保たれていることが,近年の光干渉断層計(OCT)を用いた臨床研究により証明された1)。さらに,基礎研究より,静脈血管自体がvasoactivityを有することがわかった2)。RVOは,静脈の局所的収縮による部分的狭窄が起こることによって発症すると推測され,BRVOの病態は,網膜静脈の狭窄により静脈内圧が上昇し出血および浮腫,血管内皮障害を引き起こすと考えられる3)。視神経内を網膜中心動静脈が走行しているが,視神経乳頭の篩状板部レベルでの動静脈は,健常者でも生理的に細くなっており,CRVOはその部位で生じるのだろうと推測されている。
一般に,BRVOはCRVOに比べて自然回復傾向が強いが,黄斑浮腫が遷延すると視力障害を残す。いずれも,経過は様々でバリエーションに富んでおり,自然回復が期待できるものもあれば,黄斑浮腫の遷延化や虚血型へと進行したり,牽引性網膜剝離を引き起こすなど多岐にわたる。高度の網膜静脈閉塞では動脈の灌流遅延が生じ,動脈閉塞も引き起こすことがある。CRVOの自然経過は,視力改善が3年で14%,虚血型への移行は4カ月で15%,3年で34%と言われる。特に虚血型RVOは多くの場合,最終視力は不良である。網膜新生血管や血管新生緑内障の発症を防ぐためには,網膜光凝固術が重要である。
特徴的な網膜出血や静脈の蛇行・拡張を呈するので診断は容易と思われる。非虚血型と虚血型では予後が異なるため,分類が重要である。いったん黄斑浮腫を合併すると視力低下を生じ,放置してしまうと自動車運転普通免許視力の0.7以上を保持できなくなり日常生活に支障をきたしてしまう。
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