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総括2024【後編】/Annual review 2024[Dr.ヒロの学び直し!心電図塾(第67回)]

No.5256 (2025年01月18日発行) P.6

Dr.ヒロ|杉山裕章

登録日: 2025-01-17

最終更新日: 2025-01-15

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皆さま,こんにちは。2025年に入りましたが,お正月気分の抜けきらないDr.ヒロです(笑)。今回も【前編】に引き続き,昨年を振り返りながら,ポイントを述べていきたいと思います。では,どうぞ!

▶移行帯も回転もこれで絶対に忘れない

【前編】の最後に,QRS電気軸の濃密な話ができた1年だった,と述べました。これは心底そう思います。そして,QRS電気軸がわかると,さらに理解が深まる話があります。いわば,“胸部誘導での(QRS)電気軸”に関連する概念として,「移行帯と回転」の話を2回にわけてしています。

胸部誘導において,R波(陽性成分)の増高過程にご注目下さい。QRS電気軸のチェックの際,カブレラ形式(配列)で見られたような,陽性・陰性の波形バランスが徐々に変化していく現象に気づくでしょう。これって実は,胸部誘導でいう“トントン・ポイント(TP)”が「移行帯」なんだと理解できませんか?

正常な移行帯をめぐっては,有名なミネソタ・コードによる診断基準が厳しすぎる点を指摘しました。この通りに診断すると,異常所見の“乱発”になってしまいます。それを防ぐためには,実際どうすればよかったですか? …これは私見になってしまいますが,V3,V4(ないしその中間)までを正常と見なすのが現実的な落としどころだと移行帯と回転【前半】No.5228,第54回参照)で解説しています。

移行帯と回転【後半】No.5230,第55回参照)では,移行帯の異常について扱いました。その前に,一部のケースで移行帯を心室中隔の“捻れ・歪み”と関連づけて理解できることを,“septal angle”を用いて説明しています。これはCT画像における水平線と心室中隔がなす角度に相当しました。移行帯の位置が本来よりも手前(“早い”)となる「反時計方向回転」では,痩せて心室中隔が“立っている”状態がイメージされます。

逆に移行帯が後方にずれ込む(“遅い”)「時計方向回転」では,心室中隔を含め心臓全体が“寝ている”ためと理解することができるでしょう。体型で言ったら肥満傾向の方に認められる所見でしたね*1。ただし,こうした体型とは無関係に移行帯異常が生じることも少なくないため,あくまでも解釈の一手法ととらえて下さい。

また,何と言っても,「(回転が)時計or反時計?」という疑問には,どう答えますか? …そう,文字通り“時計”のイラストを念頭に置くだけで絶対に間違えなくなるのでした。これは,Dr.ヒロ流で心電図を学んだ人の“特権”ですからね!



*1 病的意義が少なく“ねあか”な「反時計方向回転」に比べて,「時計方向回転」は,予後不良ないくつかの病態ともリンクするため,単純に体型だけですべてを語れるわけではなかったことも気に留めておいて下さい。

▶脚ブロックもほぼ出そろいました

既に「完全右脚ブロック」(No.5132,第11回参照)は扱っていましたが,病的意義の関係でも重要な「(完全)左脚ブロック」No.5206,第44回参照)を解説しました。これでひとまず,“左右”とも脚ブロックは制覇しました(笑)。ワイド(wide)なQRS幅に加えて,V1,V2と“イチエル・ゴロク”(Ⅰ,aVl,V5,V6:側壁誘導)の波形パターンに注目する“顔認証”でビシッと診断して下さい。

ポイントは胸部誘導の両端でQRS波形をパターン認識するだけですので,慣れたらカンタンだと思います。この辺は,波形がどうしてそうなるかの“理屈”に拘泥するよりも,ある意味“条件反射”的に動いて,そこから先の疾患鑑別や治療に注力するほうが医師としては有益だとボクは考えます。皆さんのご意見は?

名称的に“完全”〔QRS幅≧0.12秒(120ms)〕の自信がなければ,あえて「左脚ブロック」とだけ呼べばよいということ自体はあまり重要ではなく,むしろ,その診断が持つ病的意義に着目して下さい。種類は実に様々ですが,いわゆるホンモノの心疾患とリンクしやすいのが,絶対に忘れてはならない特徴になります。「左脚ブロック」があるときに虚血性ST変化をどう評価するかについては,機会があれば詳しく述べたいと思っていますので,乞うご期待(これも心電図ファンにとっては,たまらない話題でしょう)。

左脚は右脚がわかれた後,標準的には,“滝”のように広がりながら前枝と後枝の2つの分枝を出すと理解するのでしたね。こうした基本的な解剖知識は忘れないようにして下さいね。

「左脚ブロック」が分岐前の“本幹”レベルで生じるのに対し,2系統の“(分)枝”だけがブロックされる病態があります〔いわゆる“ヘミブロック”(hemiblock)〕。中でも,前方向に向かう前枝の伝導がブロックされた「左脚前枝ブロック」の心電図所見について,2回にわけてレクチャーしました。左脚前枝ブロック【前編】No.5234,第57回参照)では,基本的な診断基準をおさらいしました。

ここでもQRS電気軸の“数値”が威力を発揮しますよ! 「-45°超」という“高度”な「左軸偏位」か否かを識別するとき,QRS電気軸を定性的にしか考えられない人は,(おそらく)無駄な暗記事項が増えます。残る側壁・下壁誘導におけるQRS波形に関しても,電気軸に関して造詣が深ければ,悩みようがありません。初学者の方は,基本の「qR型」(Ⅰ,aVl)と「rS型」(Ⅱ,Ⅲ,aVf)だけは最低限おさえましょう。

そして,左脚前枝ブロック【後編】No.5237,第58回参照)では,前後の左室乳頭筋に着目しました。aVlに前乳頭筋,Ⅲに後乳頭筋を関連づける考え方から始めましたね。このイメージで理解できたら,実は,左脚分枝ブロックの診断はさほど難しくありません。実にシンプルに,電気刺激の進んで行く方向を2つの段階でとらえればOK―これで丸暗記と決別できます。

残る「左脚後枝ブロック」は,臨床では認められる頻度も低いため,今後,機会が許せば扱いたいと思います。つまり,出会う頻度は「左脚前肢ブロック」が圧倒的に高いのです!

▶“その他”のスポットライト

この連載『Dr.ヒロの学び直し!心電図塾』の1つの特徴は,心電図の教科書では普通,あまり取り上げられることのない内容でも,臨床的に重要なものは解説してきたことです。たとえば,血行動態と関連して論じられることが多い心周期(cardiac cycle)に関しても,実は地味に解説しています。

心周期と心電図の関係【前編】No.5215,第48回参照)では,“CD(またはDVD)”のような図を用いて,心室の収縮期,拡張期をいくつかのプロセスにわけて振り返っています。よく考えれば,心電図のことは一言も触れていません(笑)。大切な点として,心房も心室も収縮期より拡張期のほうが大分長いということは,思い出しておきましょう。

そして,いよいよ心周期と心電図の関係【後編】No.5217,第49回参照)では,心周期の一連のイベントと心電図を1枚の図で同時に示しています。収縮期と拡張期が心電図波形のどの部分に該当するのかをおさえた上で,そこに“動き”を重ねます。心電図は基本的に“電気寄り”の検査でしたよね?そのため,心房や心室の収縮や拡張,弁の開閉タイミングが波形としてつぶさに反映されるわけではありません。ただそれでも,背景でどんなことが起きているのかを考えるのは大切だと思います。

1例ですが,心カテで“(LV)EDP”(左室拡張末期圧)を測定する圧曲線のタイミングが,ほぼQRS波の頂点(ピーク)となることなんかもビビッと理解できますね?循環器医にとってはジョーシキの知識ですが,物事を深く考えられる医師ほど,こうしたバックグラウンドからきちんと理解しています。ほかにも,思わぬところでこうした知識が役立つという経験を,皆さんはきっとされると思います。

また,刺激伝導系に関係する電気刺激と心電図との関係で,P波からQRS波のはじまりまでに予想以上に多くの部分がギュッと詰め込まれていることにも驚かれたのではないでしょうか。なお,この2回は,非常に綺麗な図表を作成・公開していますので,是非見直してほしいです。

さらに,ノイズなど無視されがちな波形にもフォーカスしています。交流(ハム)ノイズ(No.5147,第18回参照)や,ドリフトノイズ(No.5162,第24回参照)の解説から少し時間が経ってしまいましたが,筋電図No.5210,第46回参照)では筋電ノイズを扱いました*2。ノイズが混入する代表的な要因や対処のしかたを忘れていないか,見直してみましょう。

加えて,代表的な筋電フィルタについても解説しています。周波数25Hz,35Hzのいわゆる“ハイカット・フィルタ”の概念や使いわけの説明とともに,ペーシング・スパイクを不用意に消してしまわぬよう注意喚起もしたつもりです。この辺は闇雲にフィルタをかけた“綺麗な心電図”が必ずしも正確な診断に寄与しないという好例かもしれませんね。

ほかですと,心電図電極について,リユーザブル電極No.5243,第61回参照)とディスポーザブル電極No.5245,第62回参照)の2回にわけて解説しています。具体的なイメージを持って頂くため,オリジナルの画像や動画を掲載できたのもよかったです。両タイプの電極の特性比較をした表はよくまとまっており,復習に値するでしょう。

リユーザブル電極では,導電(性)ペーストや(ゲル)パッドなど,実はあまり詳しく知らなかったという人の参考になったら幸いです。また,肢誘導と胸部誘導の電極部分の金属素材をそろえるべきという,臨床検査技師にとっては当然な点も指摘してみました。“HCAI”(healthcare-associated infection)という言葉には,ボク自身もあまり馴染みがなかったのですが,リユーザブル型の電極や誘導ケーブルなどを介した交差感染のリスクに関しても考える機会になったのではないかと思っています。



*2 これで心電図の“3大ノイズ”の解説をコンプリートしました。

▶不整脈についても少々

2024年は,波形異常について取り上げることが多く,不整脈に関しては,あまり扱うことができなかったことは少し心残りではあります。

期外収縮(No.5169,第27回参照)に関しては,既にベーシックは解説していますが,心室期外収縮No.5223,第52回参照)では,心室を起原とする“シャックリ”,いわゆるPVC(心室期外収縮)を取り上げて解説しています。“線香とカタチと法(ハッ)被(ピ)が大事よね”という語呂合わせまで覚えてもらったかは正直自信がありませんが(笑),心房や房室接合部からの期外収縮とは,基本的にQRS波形やP波の有無で鑑別を行うという姿勢を示した表は重要です。

ほかに,前後の洞結節(≒P波)の挙動も確認するのでしたね。「代償性休止期」という言葉だけ聞くと難しいですが,要はPVCが出た前後のP-P間隔を観察するだけです。洞結節に“茶々入れ”してペースを乱そうとする心房期外収縮(PAC)に比べ,PVCはオトナ―他人に干渉しない“上品な性格”だというたとえで理解してもらったはずです。

不整脈のもう1つは,12月ラスト2回の「徐脈頻脈症候群」に関する解説でした。まだ,皆さんの記憶にも新しいところだと思います。これは,いわゆる洞不全症候群*3の1つで,国内で多用されるルーヴェンシュタイン(Rubenstein)分類でⅢ型(群)に相当しました。徐脈頻脈症候群【前編】No.5250,第64回参照)では,心房細動による頻脈状態から“急停止”した際,洞結節がうまく歩調取りを再開できずに“フリーズ”してポーズ(心停止)を生じる,最も典型的な状況を解説しています。ダメな洞結節を“疲弊したボクサー”にたとえた医師3年目時代のボクの説明に共感してもらえる人,どれくらいいたのでしょうか…。

また,日本語では「徐脈頻脈症候群」の順番で“ブラタキ”と言いますが,海外ではむしろ“タキブラ”(tachycardia-bradycardia syndrome),略して “TBS”という略称のほうが主流だったことも覚えてくれていますか?

徐脈頻脈症候群【後編】No.5252,第65回参照)では,徐脈頻脈症候群の様々なバリエーションに関して,豊富な実例を交えて解説しています。まず頻脈として心房細動が最も代表的なものですが,ほかに心房粗動や心房頻拍,さらには発作性上室頻拍まで…発作的に生じる上室頻拍であれば何でもありと考えるのがわかりやすいでしょう。

一方,頻拍停止直後の洞結節の様子も様々です。誌面の都合もあり,詳細な心電図や解説のすべてを掲載することはできませんでしたが,Web版も是非ご参照頂きたいと思います。

また,心電図の話からは若干離れますが,臨床的に重要な徐脈頻脈症候群への治療方針の立て方についての話も面白いかと思います。近年件数が“爆増”しているカテーテル・アブレーションがらみです。従来式のペースメーカ植え込みよりも心房細動アブレーションを先行させる治療戦略は有益な可能性が高いことに関して最新の研究を交えて解説しています。

2025年は,難しいと敬遠されがちな不整脈に関しても,このレクチャーで積極的に扱っていこうと思います。



*3 自覚症状の有無に関係なく用いることができる「洞結節機能不全」(sinus node dysfunction:SND)という表現も思い出して下さい。

▶心電図検定と今回のまとめ

誌面上で“~対策”という形にはしていませんが,恒例となった日本不整脈心電学会主催の心電図検定の合格をめざす皆さんへの応援企画も行いました。日本医事新報社の方とも相談した結果,2024年は,全記事の一定期間無料公開という形式は取りませんでした。

代わりに,以前,本誌で連載していた内容を書籍化し,自身では“隠れ名著”と思っている『すき間ドリル!あなたを鍛える心電図』(日本医事新報社,2021年)から試験に出そうな内容をピックアップして公開しました。微力ながらサポートさせて頂けたのなら,幸いです*4

最後に少しだけ宣伝。本連載以外にも,えかげますたぁ|Dr.ヒロのハンドルネームでX(@ekagemaster)やnote(https://note.com/ekagemaster_hiro/) でも心電図を中心とする情報発信を行っていますので,是非フォローして下さいね!

以上で2024年の振り返りを終わりたいと思います。次回からまた“通常営業”です。どうぞお楽しみに!



*4 最近では,「○級」や「マイスター」といった言葉がややひとり歩きしていませんか?試験に合格するためだけの単視眼的な勉強や“競技性”まで意識したような問題集の乱立など…本来の目的にそぐわないような心電図の勉強だけはしないでほしいなぁと心から願っているのは,ボクだけではないはずです。

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