▼先日、日本循環器学会が開いたセミナーで、「救急現場で中心的役割を担う医師が高齢化している」という話を聞いた。学会が2008年度に行った調査では、夜間緊急カテーテルチームの年長者の年齢層で最も多かったのは45~49歳(34%)だったが、2014年度は50~54歳が最多(36%)だった。6年前の中心人物がそのままシフトしたというわけだ。
▼田原良雄氏(国立循環器病研究センター)によると、現在50~60歳の循環器内科医は、救急にかける思い入れが特に強い傾向があるという。彼らが医師になりたての1980年代初頭、急性心筋梗塞の死亡率は30%近かったが、カテーテル治療の目覚ましい進歩により、近年では10%以下まで下がっている。そのため、「技術の進歩と共に救命率を上げてきた」との自負と情熱を持っているのだという。
▼ただ、救急医療に「情熱」を持って携わっているのはこの世代に限った話ではないだろう。むしろ救急医療は医師の自己犠牲が前提となっている面が大きい。前出の調査では、当直翌日の勤務が「通常どおり」の医師は83.1%に上る。2008年度の調査でも通常勤務は87.0%なので、冒頭の「高齢化」は、「情熱依存」の環境が変わっていないことを反映した現象かもしれない。08~14年度に診療報酬改定が3度あったことを考えると、情熱依存からの脱却にはお金以外の対策も必要だ。
▼鍵を握るのはICTだろう。救急隊が搬送中に12誘導心電図データをクラウドで近隣の病院に伝送するなど、病院前でのICT活用が全国に浸透しつつある。病院前での情報共有は、収容先の選定を迅速化し、救命率向上だけでなくオンコール医師の負担も軽減できる。情熱ばかりに依存せず救急医療を維持するためにも、ICT導入の一層の推進が望まれる。