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病巣がはっきりしない難治性てんかんに対する外科的治療

No.4748 (2015年04月25日発行) P.61

三國信啓 (札幌医科大学医学部脳神経外科教授)

登録日: 2015-04-25

最終更新日: 2021-01-05

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【Q】

画像診断ならびに手術方法の発達により,病巣がはっきりとわかる難治性てんかんについては焦点切除術が的確に行えるようになりました。しかし,通常のMRI撮影で異常が認められない場合に,どのように診断を進めればよいのか,どのような治療法があるのかについて,札幌医科大学・三國信啓先生のご教示をお願いします。
【質問者】
髙橋 淳:京都大学iPS細胞研究所臨床応用研究部門教授

【A】

てんかんの頻度は人口の0.5~1.5%と推定されます。うち約70%は適切な抗てんかん薬による治療により発作抑制に至りますが,残る約30%が薬剤難治性てんかんになります。
脳腫瘍によるてんかんや側頭葉てんかんでは,てんかん焦点切除術の有効性が確立しています。また,小児例,特に乳幼児期から発作が頻発して精神運動発達の停滞や退行をきたす破局型てんかんやてんかん脳症を生じる可能性がある場合には,早期から外科治療を視野に入れて診療し,手術のタイミングを逃さないようにすることが重要です。
てんかん焦点診断には,発作型診断,頭皮上脳波(発作時,発作間欠期),MRI, SPECT・PET,脳磁図,神経心理テストを一般的に行います。特に,入院して数日間,頭皮上脳波の連続記録,発作時の脳波・ビデオ同時記録とその正確な診断が手術を成功させるために特に重要です。
さて,ご質問の「病巣がはっきりしない難治性てんかん」は原則,硬膜下電極留置による長時間脳波・ビデオ同時記録が必要になり,てんかん診療基幹施設でのみ可能です。病巣がはっきりしないので,組織変化の軽いてんかん焦点が広く存在する可能性が高く,また焦点には会話をする,手足を動かす,などの脳機能を持つ場合があります。
このため,1cmおきに電極が並ぶシリコンシートを脳表に数日間留置して,てんかん焦点と脳機能の位置関係を詳しく調べる必要があります。この方法では局所診断だけではなく,脳内ネットワークを調べることができるため,てんかんの病態解明やヒト脳機能の可塑性の研究にも役立ちます。正確なてんかん焦点診断を得られても,その部分が脳機能部位であれば摘出には慎重になる必要があります。このようなときには覚醒下での摘出(覚醒下手術)が安全かつ効果的な方法です。
焦点が広範囲である場合や焦点切除術後に発作が改善していない場合にも,外科的治療が適応になりますが,上述の発作消失をめざす手術とは異なり緩和的治療となります。急激に転倒し外傷が絶えない発作を持つ症例には,発作波の両側同期化抑制を目的に脳梁離断術を行うことがあります。
2010年に保険適用された迷走神経刺激療法は北米で長い歴史があります。迷走神経刺激療法は開頭手術よりも格段に侵襲度が低く,刺激調整が可能な新しい治療方法です。ただし適応判断と手術には,日本てんかん学会と日本脳神経外科学会の両専門医資格を有する医師に相談が必要です。

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