女性の社会進出に伴う晩婚・晩産化の影響で,乳癌と診断された時点で妊娠・出産を経験していない若年乳癌患者も少なくありません。乳癌治療に伴う不妊は,挙児希望のある若年乳癌患者のクオリティ・オブ・ライフに大きな影響を与えますが,最近では薬物療法前に受精卵や卵子・卵巣を凍結保存することで,がん治療後の妊娠・出産の可能性を残す生殖補助医療への取り組みも始まっています。
妊娠・出産に関する意思決定は個人的なものであり,医療者がパターナリズムで意思決定をするわけにはいきません。生殖年齢にある患者さんには,患者さんの意思表示の有無によらず,治療開始前にがん治療が妊孕性に与える影響や妊孕性保持の可能性についてお話しすることが大切です。
国内では2014年9月に医療者から患者さんへの情報提供を支援するため,『乳がん患者の妊娠出産と生殖医療に関する診療の手引き(2014年版)』(金原出版)が発行されました。こうした情報を参考に,がんの予後,治療の効果,生殖機能に与える影響,生殖医療の成績など,患者さんの意思決定に必要な情報を,現時点では不明な点も含め,正確にわかりやすく伝える必要があります。
がん治療の側面からだけを考えますと,閉経前ホルモン受容体陽性乳癌の患者さんには,術後に5~10年にわたるタモキシフェンの投与が推奨されています。タモキシフェンは流産や催奇形性のリスクがあるため,内服中および薬剤が体内からwash outされるまでの数カ月間は避妊が必要になります。したがって,がん治療を最優先にしていると,ホルモン療法終了時には年齢的に妊娠・出産の機会を失ってしまう可能性があります。
妊娠・出産のためにタモキシフェンの投与を延期したり,中断したりすることが,がんの予後に不利益をもたらすかどうかはわかっていません。
現在,International Breast Cancer Study Group(IBCSG)を中心に,閉経前ホルモン受容体陽性乳癌患者が妊娠・出産のために一時的にホルモン療法を中断することの安全性を評価することを目的とした世界規模の臨床研究Pregnancy Outcome and Safety of Interrupting Therapy for Women With Endocrine Responsive Breast Cancer (POSITIVE)試験(IBCSG48-14/BIG8-13)が開始されたところであり,わが国でも参加の準備を進めています。