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心停止後症候群に対する体温管理

No.4759 (2015年07月11日発行) P.59

西村匡司 (徳島大学大学院救急集中治療医学教授)

登録日: 2015-07-11

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

院外心肺停止患者に対する治療目標は,良好な神経学的回復から元通りになることであり,2010年AHA(American Heart Association)ガイドラインは,病院外での心停止後自己心拍が再開した昏睡状態の患者に対して低体温療法(32~34℃,12~24時間)を施すことを推奨しています。一方で,低体温療法の有効性を必ずしも肯定しない研究報告があり,低体温の導入や復温方法,復温後の管理など,明らかにされていないことも多くあります。院外心肺停止患者に対する体温管理(target temperature management)を行う上で,どのようなポイントがあり,工夫をされているのでしょうか。徳島大学・西村匡司先生のご教示をお願いします。
【質問者】
久志本成樹:東北大学大学院医学系研究科救急医学分野 教授

【A】

院外心肺停止患者に対する治療目的は,神経学的予後をできるだけ良い状態にして生存退院させることです。様々な方法が試みられてきましたが,エビデンスレベルの高い治療法は,自己心拍再開後の昏睡患者(Glasgow Coma Scale<8)に対する低体温療法です。
体温を何度に維持すると最も予後が良くなるかは大きな臨床の課題ですが,根拠となる臨床研究はありません。しかし,高体温が神経学的予後を悪化させることは明らかです。院外心肺停止患者では,病院到着時には体温が高くなくとも,その後に体温上昇することが稀ではありません。体温管理が重要な治療であることに疑問の余地はありません。
現在,私たちは,院外心肺停止で自己心拍再開後の昏睡患者に対しては,できるだけ早期に34℃を目標に体温調節するようにしています。34℃の維持は24時間です。その後,12~24時間かけて常温に復温します。体温管理での注意点はいくつかあります。体温測定部位は必ず深部体温を測定できる部位を選びます。腋窩温,鼓膜温は測定誤差が大きいので推奨できません。血液温が標準になりますが,これを利用できるのは稀です。膀胱温,直腸温,食道温が推奨されています。腋窩温や鼓膜温のように一定間隔の測定ではなく,連続測定できるので,体温管理上有用です。私たちは膀胱温を用いています。
目標体温を決めたら,速やかに目標体温に到達するようにします。冷却した細胞外液を急速投与するとともに,体表冷却も同時に行います。鎮静・鎮痛薬は最小限にとどめますが,振戦予防に筋弛緩薬も必要になることがあります。目標体温に近づいた場合は下がり過ぎないようにします。低体温に伴う合併症には致死的となるものもあります。出血傾向,不整脈,高血糖や感染症です。特に感染症予防には十分な注意が必要です。
復温には時間をかけ,復温後は高体温にならないようにします。37℃を目標に復温すると復温を中止しても体温上昇が続きます。決して高体温にならないように管理することが大切です。
最近の臨床研究結果(TTM trial)では,低体温療法の有効性が否定されています。目標体温33℃群と36℃群で神経学的予後に差はありませんでした。しかし,現状では24時間の低体温療法を選択するほうが安全であると考えています。

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