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前立腺癌放射線治療後の性機能障害への対応

No.4766 (2015年08月29日発行) P.58

木村将貴 (帝京大学医学部泌尿器科講師)

登録日: 2015-08-29

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

前立腺癌に対する放射線治療が近年広く施行されていますが,照射後の性機能障害を認めることがあります。この病態と対応について,帝京大学・木村将貴先生のご教示をお願いします。
【質問者】
佐藤威文:北里大学医学部泌尿器科講師

【A】

前立腺癌に対する放射線治療後の勃起障害は,神経血管束や勃起に関係する血管,周辺組織に放射線が当たることが原因と考えられています。米国の研究では放射線治療2年後に,およそ6割に勃起障害を認めるとされています。手術と違い射精は保たれますが,ホルモン療法を併用することが多く,その影響で勃起機能の低下のほか,性欲自体が減退することがあります。
治療後の勃起機能に関しては,前立腺癌の外科治療と比較すると急激な勃起機能の低下は認めませんが,加齢やホルモン療法の影響で治療後には緩徐に低下することになります。
帝京大学医学部附属病院で2013年1~12月まで初発もしくは再発の前立腺癌に対して強度変調放射線治療(intensity modulated radiation therapy:IMRT)を受けた41名を検討してみました。その結果,平均年齢は71.3±6.0歳,初回PSAは36.2±40.0ng/mL,全照射線量は71.9±6.2Gy,照射回数は36.0±3.7回でした。また,T分類ではT1が24%,T2が27%,T3が49%であり,80%にホルモン療法が併用されていました。
結果として,比較的高齢のハイリスク症例に放射線療法を選択するケースが多く,当施設では性機能が問題になることは決して多くはありません。一方で密封小線源療法など,低リスクの限局性前立腺癌に対する放射線治療を多く行っている施設では,相対的に性機能に対する問題が生じやすいと考えられます。
個々の症例のことなので一概には言えませんが,放射線治療でも外照射や密封小線源療法単独か,それにホルモン療法を併用するかによっても性機能の変化は異なります。近年になり照射技術が向上し,勃起機能に関係するとされる陰茎脚や陰茎球部の照射線量を減らして性機能を保とうという試みもあります。
しかし,ホルモン療法で性機能が低下してしまう症例も多く,治療後の性機能を気にするかどうか,治療前に患者さんとよく相談することが望ましいと考えます。また,可能であれば,日本性機能学会専門医などにセカンドオピニオンや治療後のフォローを求めるのも1つの方法です。
放射線治療後の性機能障害の治療で最も使用される薬剤は,phosphodiesterase type 5(PDE5)阻害薬です。患者さんが治療後の勃起機能低下を訴えた場合は第一選択としてシルデナフィル,バルデナフィル,タダラフィルのon demand投与を提示するべきでしょう。また,当科ではPDE5阻害薬に反応しない重度の勃起障害患者に対しての治療選択肢として,プロスタグランジンE1 (PGE1 )の陰茎海綿体自己注射を提示しています。
PGE1は陰茎の血流が保持されていれば神経が損傷されていても勃起が期待できるため,放射線性勃起障害の方に有効な治療法です。現在,わが国では陰茎海綿体自己注射は認められていませんが,当科では多施設共同研究で倫理委員会承認のもとに行っており,現在のところ重篤な副作用は認めておらず,初期の導入をしっかりすれば安全に使用できる薬剤だと考えられます。

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