【Q】
(1)掌蹠に湿疹を繰り返す異汗性湿疹や,掌蹠にとどまらず全身に湿疹を繰り返す患者さんのすべてに金属パッチテストを実施されていますか。
(2) パッチテストで陽性の金属のうち,さらに内服テストを勧めるべきものは何でしょうか。
(3) パッチテストの結果により食事指導はできますが,歯科金属の除去など費用のかかる処置をどの程度勧めるべきでしょうか。
(4) 食事も見直し,金属を除去したにもかかわらず,皮膚症状が改善されないという例はありますか。
以上について,兵庫県立加古川医療センター・足立厚子先生のご教示をお願いします。
【質問者】
藤本 亘:川崎医科大学皮膚科教授
【A】
(1)パッチテストの施行対象
異汗性湿疹や,全身の湿疹再発を繰り返し,治療に難渋する症例では,まず血清総IgEや,吸入抗原特異的IgEを測定し,アトピー素因の有無について検討します。それとともに,金属アレルギーをはじめとする接触アレルギーが増悪因子になっている可能性があることを患者さんに説明します。患者さんが検査を希望される場合には,病歴をよく聴取し,金属アレルゲンのみならず,スタンダードアレルゲン,外用薬,手袋,洗剤など持参物のパッチテストを計画します。
繰り返す汗疱状湿疹の臨床像や,金属かぶれなどの既往歴があり,食物から吸収される金属が増悪に関与している全身型金属アレルギーが強く疑われる場合,患者さんの同意が得られた症例では,パッチテスト予約日までの期間を利用して,金属を多く含むナッツ,豆類,玄米,チョコレート,ココア,胚芽,貝などの食品を制限して軽快するか否かを確認することもあります。
(2)内服テスト可能な金属
パッチテストが可能な金属は17種類ほどありますが,そのうち内服テストが可能な金属は必須金属のみです。これまでに内服テストの報告のある金属は,ニッケル,クロム,コバルト,亜鉛で,ニッケル,クロム,コバルトについては推奨されるアレルゲンおよび量が定められています。
ただし,内服した金属のうち消化管から吸収される金属は一部のみであるため,通常摂取量の5倍ほどの金属を負荷する必要があること,吸収量に変動があること,内服テストにより胃腸症状をきたしやすいことなどの問題点があります。よって金属塩の内服テストの代わりに,金属を多く含むナッツ,豆類,玄米,チョコレート,ココア,胚芽,貝などの食品の負荷テストで代用することもあります。
(3)歯科金属除去を考える場合
パッチテスト陽性の金属がニッケル,クロム,コバルトの場合には食品中に含有されるもののほうが多いので,金属制限食を施行し,歯科金属除去は,歯科矯正金具の変更を依頼する場合以外はほとんど行いません。
ただし,パッチテスト陽性の金属がパラジウム,金,水銀などの場合には,食品中にはほとんど含有されないので,関与が強く疑われ,難治性で,患者さんが希望される場合にのみ,歯科金属除去を歯科医と相談します。
(4)金属制限食でも軽快しない場合
私は,歯科金属除去を必ず関与があると確信した患者さん以外には行わないため,金属制限食と歯科金属除去の両方を行っているのに軽快しないという症例には遭遇していません。ただし,金属制限食を行っているのに軽快しないという症例にはしばしば遭遇します。その場合,まずほかにアレルゲンや増悪因子がないか,金属制限食は確実にできているかを確認します。その上で,金属の吸収を阻害するクロモグリク酸ナトリウム(インタールR)の内服や金属のキレート作用を有するミノサイクリン塩酸塩の内服の併用を考慮します。逆に金属制限食を解除しても増悪がみられなければ,むやみに金属制限食を続けないほうがよい場合もあります。